フロント・ネックチャンスリー

概要

フロント・ネックチャンスリー、またの名をフロント・ネックロックは、格闘技において相手の首関節を極める技です。主にレスリングやプロレス、そして絞め技に制約のあるキャッチ・アズ・キャッチ・カンで発展した技術体系の一部を成しています。柔道の川石メソッドでは縦挫（たてひしぎ）とも称されます。この技は、見た目が似ているフロント・チョークとは異なり、気管や頚動脈を絞めるのではなく、相手の首を曲げて頸椎に直接ダメージを与えることを狙います。

極め方

技を仕掛ける際は、まず相手と向き合った状態で前屈みの体勢にさせ、自身の腋の下で相手の頭部を深く抱え込みます。ここからがフロント・チョークとの決定的な違いです。首を絞める力点とは異なり、抱え込んだ腕の手首や前腕部を相手の頬骨付近に密着させるように当て、自身の腹部を突き出すように体幹を反らせます。この動きによって、相手の頭部を約90度回転させつつ、首を強く曲げ込んで頸椎を極めます。この技はネックロックの派生技として分類され、特に絞め技が反則となる状況下で有効な選択肢となります。総合格闘技の試合などでは、フロント・チョークを狙った際に結果としてフロント・ネックロックのような形になるケースも見られます。ただし、フロント・チョーク自体をフロント・ネックチャンスリーと呼ぶことはありません。

柔道川石メソッドにおける関連技

柔道の川石メソッドには、この縦挫（フロント・ネックチャンスリー）に関連する複数の技が存在します。

逆挫（ぎゃくひしぎ）: クローズド・ガードポジションから仕掛けるフロント・ネックチャンスリーの形です。
抑挫（おさえひしぎ）: 自身の帯などを掴んでグリップを補強して行うフロント・ネックチャンスリーを指し、『Ma méthode de judo』という書籍では縦四方固などからの連携が紹介されています。
抑胴挫（おさえどうひしぎ）: クローズド・ガードポジションから自身の帯を掴んで行う、抑挫の一種です。

類似技との区別

フロント・ネックチャンスリーは、その体勢からいくつかの類似技と混同されがちですが、それぞれメカニズムや効果が異なります。

フロント・チョーク: こちらは気管や頚動脈を圧迫する絞め技であり、首関節を狙うフロント・ネックチャンスリーとは根本的に異なります。相手の頭上側から首を固めて締め上げます。
フロント・ヘッドロック: フロント・ネックチャンスリーと同じく頭部を片腕で抱え込む体勢から入ることがありますが、腋や上腕の力を用いて相手の頭蓋骨を締め上げる技です。頭部自体へのダメージを目的とし、スタンディングや中腰で用いられることが多いです。
フロント・フェイスロック: フロント・ネックチャンスリーの体勢から、前腕部などを相手の顔面に当てて顔面を締め上げる技です。フロント・ヘッドロックと同一視されることもあり、こちらもスタンディングや中腰で用いられることが多いです。

プロレス技としての発展：フロント・ネックチャンスリー・ドロップ

プロレスにおいては、フロント・ネックチャンスリーの体勢を利用した強力な投げ技、フロント・ネックチャンスリー・ドロップが存在します。これは相手をフロント・ネックロックの体勢で捉えたまま、自身の体をブリッジさせて後方へ勢いよく反り投げ、相手を背中からマットに叩きつける技です。

この技が日本で初めて公開されたのは1963年、日本プロレスの大会でした。サンダー・ザボーがアントニオ猪木戦で使用し、勝利を収めています。その後、猪木自身も日本プロレス一時離脱後の東京プロレス時代に「アントニオ・ドライバー」の名称で使用しました。歴史的な使い手としては、アンドレ・ザ・ジャイアントも知られています。

見た目以上に全身、特に体幹の筋力を大きく消耗する技とされており、猪木もこの技を多用したことで腰を痛め、東京プロレス時代以降は使用を控えるようになりました。アンドレも体力が充実していた全盛期に限定して使用していたと言われています。この技がブレーンバスターの原型であるという説も存在しますが、ブレーンバスターの開発者であるキラー・カール・コックスはこの説を否定しています。

フロント・ネックチャンスリー・ドロップからは、いくつかの投げ技が派生したり、関連付けられたりしています。

ハーフハッチ・スープレックス: 前屈みの相手の首に腕を回しつつ、もう片方の手で脇の下から相手の背中を抱え、ブリッジで投げる技です。
タイガー・ドライバー: 初代タイガーマスクこと佐山聡が生み出した技。片足を振り上げる勢いを利用して投げます。二代目タイガーマスク（三沢光晴）の同名技とは全く異なるものです。
魔神風車固め（マシーン・スープレックス）: スーパー・ストロング・マシーンのオリジナル技。相手の腕を巻き込みつつ、首も固定してブリッジで投げてそのままフォールを奪います。
あすなろスープレックス: 山田恵一のオリジナル技。相手の腕を抱き込みつつ首を固定し、ブリッジで投げてフォールを狙います。
* 天龍稲妻落とし: 天龍源一郎の技。フロント・ネックロックの体勢で相手を持ち上げ、そのまま自身の背中から倒れ込み、相手の顔面付近をマットに叩きつけます。

これらの派生や関連技からも、フロント・ネックチャンスリーが格闘技、特にプロレスにおける投げ技や関節技のバリエーションを豊かにする技術として重要な位置を占めていることが分かります。

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