フンボルトペンギン

フンボルトペンギン（学名: Spheniscus humboldti）は、ペンギン目ペンギン科ケープペンギン属に分類される鳥類です。南米のチリやペルーの沿岸部に生息しており、フンボルト海流の影響を受ける地域に分布しています。

分布

フンボルトペンギンは、主にチリ北部から中部、ペルーの沿岸に分布しています。繁殖地は、北は南緯5度のフォカ島から、南は南緯42度のチロエ島までと広範囲に及びます。特に、プンタサンフアン（南緯15度）は大規模な繁殖地として知られています。分布域の南端では、マゼランペンギンと同所的に生息しています。

形態

全長は64〜69cmで、頭部から背中にかけて黒色、胸から腹部にかけて白色をしています。目の周りから首にかけて白い半円形の模様があり、胸には黒い帯模様が1本あります。嘴は黒く、灰色の筋模様が入っており、基部にはピンク色の皮膚が露出しています。足は黒く、白やピンクの斑点が見られる個体もいます。幼鳥は、頭部から背中が褐色や濃い灰色をしており、成鳥のような帯模様はありません。

分類

フンボルトペンギンは、マゼランペンギンやケープペンギンと種間雑種を形成することがあるため、これらの種を同種とする説もあります。種小名の「humboldti」と和名のフンボルトは、ドイツの地理学者であるアレクサンダー・フォン・フンボルトにちなんで名付けられました。

生態

フンボルトペンギンの生態については、野生での観察が限られており、主に飼育下での情報に基づいています。彼らは協調性が高く、集団繁殖地でもあまり争うことはありません。飼育下では、敵対行動として、首をひねって片目で相手を見たり、嘴を相手に向けたりすることが観察されています。換羽期には、海岸の岩場に集まって眠るように過ごし、エネルギーを節約します。遊泳速度は平均時速3.4kmですが、最高時速11kmで泳ぐこともあります。潜水は比較的浅く、27m以上潜ることは稀で、最深潜水記録は54mです。潜水時間は1分から2分半程度で、最長潜水時間は165秒です。

食性は肉食で、主に魚類を捕食します。チリではサンマ、カタクチイワシ、マイワシなどが報告されており、アルガロッボでは主にカタクチイワシを食べていますが、マイワシやミナミスルメイカも捕食しています。卵や雛の捕食者としては、セチュラギツネ、ペルーカモメ、ミナミトウゾクカモメ、クロコンドルなどが挙げられます。

繁殖期は特定の時期に限定されませんが、主に4〜5月に繁殖を開始することが多いです。飼育下では周年繁殖することがあり、野生でも周年繁殖の可能性が示唆されています。通常は年に1回繁殖しますが、北部個体群では、2度繁殖することもあります。婚姻形態は一夫一妻制ですが、飼育下では一夫多妻や一妻多夫になることもあります。ペアは死別しない限り、前年のペアを解消することは少なく、同じ巣を利用します。メスの方がペアを変更する傾向があり、ペアの決定権はメスにあると考えられています。繁殖行動として、オスが単独で鳴きながら移動する、ペアで同じ行動をする、オスがメスを叩く、互いにおじぎをするなどが観察されています。

巣はグアノの斜面に穴を掘って作ることが多いですが、グアノが採掘された場合は、海岸の砂地や洞窟を利用することもあります。メスは巣材を集めることはほとんどなく、オスが巣材を集めます。2個の卵を産み、雌雄で抱卵し、抱卵期間は平均40.7日です。繁殖成功率は環境によって変動が大きく、平均で1つの巣から1.3羽程度が巣立ちます。エルニーニョが発生すると、餌不足により繁殖が失敗することが多く、繁殖成功率が大幅に低下することがあります。雛はクレイシ（雛の群れ）を形成せず、一生を巣と海を往復して過ごします。平均寿命は25年ほどと言われています。

人間との関係

フンボルトペンギンは、グアノの採掘による産卵地の破壊、漁業による餌の競合や混獲、食用や漁業の餌用の狩猟などにより生息数が減少しています。エルニーニョ現象、繁殖地での人間による攪乱、移入された動物による捕食、原油流出なども個体数減少の要因となっています。生息数の減少により、在来種の捕食も脅威となっています。1982年以前は16,000〜20,000羽が生息していましたが、1987年には10,000羽程度まで減少したと推定されています。

日本では、1915年に初めて恩賜上野動物園で飼育され、ペンギン目全体としても初の飼育例となりました。第二次世界大戦以降では、1953年に東山動物園が飼育下繁殖に成功しています。現在では、70以上の施設で1600羽以上が飼育されており、日本はフンボルトペンギンの飼育数が世界で最も多い国となっています。これは、日本の気候が飼育に適していること、停電のない電力事情、孵卵器や治療法の確立などが背景にあります。しかし、日本の動物園では個体数が増えすぎており、産卵された卵の9割を擬卵にすり替えて繁殖を抑制する措置がとられています。一方、他の国々では飼育が難しいため、日本の飼育技術を南米に移植する動きも出ています。

保全状況

フンボルトペンギンは、国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストで絶滅危惧が増大している「危急種」（VU）に指定されており、ワシントン条約附属書Iにも掲載され、取引が厳しく制限されています。南米での生息地の環境破壊や乱獲などにより、個体数の減少が深刻化しています。

その他

下関市立しものせき水族館では、フンボルトペンギンの生息域外重要繁殖地として指定されています。

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