フーゼスターンの年代記

フーゼスターンの年代記（グイディの年代記）

『フーゼスターンの年代記』は、7世紀のネストリウス派キリスト教徒の歴史を記録した年代記であり、発見者の名前にちなんで『グイディの年代記』とも呼ばれています。シリア語で書かれたこの年代記は、著者不明であり、サーサーン朝のホルミズド4世の治世（579年-589年）から、7世紀中葉のアラブによる征服の時代までを扱っています。

発見の経緯

年代記は、14世紀に筆写された写本が、イラク北部のクーシュ（エルコシュ）村郊外にあるラッバーン・ホルミズド修道院で保管されていました。その後、西洋の図書館に納めるための影写本が制作されました。イタリアの図書館に所蔵されていた影写本のうち、ボルジアヌス・シリアクス82（Borgianus syriacus 82）を調査した東洋学者のイグナツィオ・グイディが年代記の存在を確認しました。グイディは、1889年にストックホルムとクリスチャニアで開催された第8回国際東洋学者会議で年代記の発見を発表し、1903年にはラテン語への翻訳を公刊しました。

内容の詳細

年代記は、時系列に沿って歴史的な事件に関する短い記述が並べられており、教会内の出来事だけでなく、世俗的な出来事も含まれています。年代記には「聖界の歴史と俗界の歴史から抜粋したエピソード集」というタイトルが付されており、東方シリア教会の聖伝集から抜き取られた一部であることが示唆されています。

『グイディの年代記』という名前は発見者に由来しますが、『フーゼスターン年代記』と呼ばれるのは、この年代記がフーゼスターン地方の出来事を主に扱っているためです。世俗的な歴史として記録されている出来事には、ホルミズド4世統治下のバフラーム・チョービンの反乱から、7世紀中葉のアラブ人によるペルシア帝国の征服までの出来事が含まれます。特に、フーゼスターン地方の町シューシュタルにおけるペルシア帝国の将軍ホルモザーンによるアラブ人への抵抗運動や、町の陥落についての記述は重要です。また、アラブ人の住む町やカァバについての記述も含まれています。

著者について

著者は不明ですが、高位聖職者であると考えられています。年代記の執筆は、遅くとも660年には開始されていたと推測されています。ピエール・ノタンは、メルヴ司教区のエリアスという名の司教ではないかと推測していますが、確証はありません。年代記の末尾のいくつかの節は、他の部分とは異なる人物によって書かれた可能性があります。しかし、この部分こそが、客観的な史料が少ない勃興期のイスラーム共同体を第三者の視点から記述している点で、歴史学的に重要な意味を持っています。

サーサーン朝末期の社会情勢や、アラブによる征服の様子を知る上で貴重な史料であり、当時の人々の生活や文化、宗教観を垣間見ることができるでしょう。

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