エルコシュ

エルコシュ（英語: Alqosh, Alkosh, Alqush）は、イラク北部、ニネヴェ平原に位置する歴史ある集落です。モースル市から約45km北に位置し、テル・カイーフ行政区域に属しています。住民の多くはアッシリア人とヤズィーディー教徒で構成され、少数のアラブ人も居住しています。特に、カルデア教会に所属する住民は、民族的にはアッシリア人として分類されますが、アッシリア東方教会とは異なる宗派に属しています。サミ・ズバイダはエルコシュを「もう一つのアッシリア人の中心地」と評しました。

歴史的背景

1933年には、エルコシュより北の地域でアッシリア人に対する虐殺事件が発生しました。当時のイギリスのモスル管理監査官は、この虐殺が計画的なものであったと述べています。また、多くの難民がエルコシュに逃れてきて、カルデア・キリスト教徒の慈善活動によって生活していました。

キリスト教における重要性

エルコシュは、東方教会において重要な場所です。特に、ラバン・ホーミズド修道院の存在は、この地を特別なものにしています。この修道院は、17世紀の創始者であるラバン・ホーミズドにちなんで名付けられ、東方教会の聖人として敬われています。山の斜面に建てられたこの修道院は、東方教会の学習の中心地として機能し、15世紀後半からは東方教会の長老たちの墓所でもありました。しかし、冬には雪で孤立するため、長老たちの永住の地にはなりませんでした。1552年の教会分裂では、修道院長ヨハナム・スラーガが、ローマに赴きカトリック教会と合同し、教皇に長老として認められました。この分裂は、後のカルデア・カトリック教会の隆盛へと繋がります。17世紀から18世紀にかけては、「正統派」の長老系統がローマに接近しましたが、正式な承認は得られませんでした。しかし、1830年にはヨハナム・ホーミズドがカルデア・カトリック教会の長老に選ばれました。

預言者ナホムとの関連

エルコシュには、旧約聖書の預言者ナホムの墓があるとされています。1847年にこの地を訪れたオースティン・ヘンリー・ラヤードは、この伝統を報告しました。イラクのユダヤ人は、シャブオットの期間にこの墓を巡礼し、「ナホムの墓に巡礼した事のない者は、本当の喜びを知らない」と述べていました。1948年にユダヤ人がイラクを去る際、この墓の管理は地元のカルデア・カトリック教徒に委ねられました。2017年の調査では、構造物に崩壊の危険性があることが判明し、安定化のための作業が行われています。

襲撃事件の歴史

エルコシュは、歴史を通じて数多くの襲撃を受けてきました。1401年にはチムールによって、1508年にはバグダードの高官によって攻撃されました。1828年にはアマディーヤの支配者が修道院に火を放ち、1831年にはソラン首長が村を襲撃し、300人近くの住民が殺害されました。1832年には、ラワンドゥズのムハンマド・パシャがエルコシュを襲撃し、600人以上の住民が命を落としました。1843年には、クルド人による修道院への襲撃があり、多数の写本が破壊された可能性があります。2014年には、ISILがエルコシュに接近し、ほぼ全ての住民が避難しましたが、男性や若者たちは村を守るために残りました。ISILはペシュメルガの介入後、村の占領に失敗しました。

人口動態

2020年3月の報告では、エルコシュの人口は4,567人でした。その内、1,015世帯はカルデア・カトリック教派に属していました。1913年には、7,000人のカルデア・カトリック教徒が居住していましたが、多くの住民が1970年代以降に海外に移住しています。現在、デトロイト、ミシガン州、シドニー、カリフォルニア州サンディエゴなどに、エルコシュ出身の移民とその子孫が多数居住しています。2010年には、イラク北部での迫害によって、アッシリア人、カルデア人、シリア語系の住民がニネヴェ平原に避難し、504人のアッシリア人がエルコシュに移住しました。2020年時点での集落の人口は、約4,600人と推定されています。

クルディスタン地域政府（KRG）との関係

2014年には、エルコシュの市長が不当に拘留され、KRGによって交代させられましたが、住民の抗議により復職しました。2017年には、再び虚偽の汚職告発によって拘留され、交代させられています。

気候

エルコシュは、ステップ気候に属しており、夏は非常に暑く乾燥し、冬は涼しく湿潤です。

エルコシュ出身の著名人

エルコシュは、多くの著名人を輩出しています。ヨハナン・ホーミズド、ジョセフ・Ⅵ・アウド、トマ・アウド、ヨーセフ・Ⅵ・エマヌエル、パウロ・Ⅱ・チェイクホといったカルデア・カトリック教会の長老や大司教、歴史家のヒルミス・アボーナ、モースルの大司教であるエミル・シモウン・ノナなどがいます。

エルコシュは、その歴史、文化、宗教的な重要性から、今日でも多くの人々の関心を集めている場所です。

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