フー・アー・ユー (アルバム)

ザ・フー『フー・アー・ユー』：終焉と新たな始まり

『フー・アー・ユー』（Who Are You）は、1978年にリリースされたザ・フーの8枚目のスタジオアルバムです。3年のインターバルを経て発表された本作は、全英6位、全米2位を記録し、商業的な成功を収めました。しかし、発表後間もなくドラマーのキース・ムーンが急逝したため、彼が参加した最後のオリジナルアルバムとして、特別な意味を持つ作品となりました。

重厚なサウンドへの転換

プロデュースは前作に引き続きグリン・ジョンズが担当。加えて、ピート・タウンゼントの義弟であり、後にザ・フーのリイシュー作品のリマスタリングを手掛けるジョン・アストリーが参加しました。前作の簡素な音作りから一転、本作ではオーケストラやシンセサイザーを大胆に導入し、『四重人格』を彷彿とさせる重厚なサウンドが特徴です。ジョン・アストリーによれば、これはタウンゼントの意向によるもので、アメリカのラジオ放送を意識した戦略的なものでした。アンディ・フェアウェザー・ロウや元ゾンビーズのロッド・アージェントなど、ゲストミュージシャンも多数参加し、サウンドに華を添えています。

幻のロックオペラ『ライフハウス』

本作に収録された楽曲は、元々タウンゼントが1970年代から構想していたロックオペラ『ライフハウス』のために用意されたものでした。しかし、『ライフハウス』は内容の難解さから一度は制作が頓挫。1976年の大規模なツアー後、タウンゼントは再び『ライフハウス』の完成を目指し、脚本を書き直しました。映画化も視野に入れ、ミック・ジャガー主演の『パフォーマンス』や、デヴィッド・ボウイ主演の『地球に落ちてきた男』で知られる映画監督ニコラス・ローグとの交渉も行われましたが、ローグが脚本に難色を示したため、交渉は決裂。『ライフハウス』は再び頓挫しましたが、タウンゼントはこれらの楽曲を次のアルバムに転用することを決意しました。

困難を極めたレコーディング

レコーディングは1977年9月から1978年5月まで、約9ヶ月にも及びました。しかし、そのうち実際にレコーディングに費やされた時間はわずか1ヶ月程度でした。グリン・ジョンズは早期にプロデュースを降板し、タウンゼントは夫婦喧嘩で手を怪我してギターが弾けなくなり、ダルトリーは喉の手術を受けるなど、トラブルが続出。レコーディングは度々中断されました。また、楽曲のアレンジを巡ってダルトリーとジョンズが口論の末に殴り合いになるという事件も発生しました。

キース・ムーンの苦悩

最も深刻だったのは、キース・ムーンの健康状態でした。長年の不摂生により身体は限界に達しており、「ミュージック・マスト・チェンジ」ではドラムの音が削除されるほどでした。ミスを連発するたびに彼は皆に謝っていましたが、何度も録り直しを要求されるうちに「俺は世界一のキース・ムーン・スタイルのドラマーだからな!」と逆上することもあったそうです。タウンゼントは、本作の制作中にムーンが長くないことを悟ったと語っています。

ドキュメンタリー映画と最後のステージ

本作と同時進行で、ザ・フーのドキュメンタリー映画『キッズ・アー・オールライト』の撮影も行われました。1977年12月には、映画のためにロンドンでライブを行いましたが、演奏は不調で、映画で使用されることはほとんどありませんでした。映画で使用された映像は、翌年5月にシェパートン・スタジオで撮影されたライブからのもので、これがムーンにとって最後のステージとなりました。

キース・ムーンの死とリイシュー

アルバムは1978年8月にリリースされましたが、その3週間後、ムーンは処方薬の過剰摂取により32歳で死去。日本盤のレコードには、彼の死を伝える帯が付けられました。1996年にはリマスター／リミックス版がリリースされ、未発表曲や別ミックスが追加収録。2011年には日本限定で、オリジナル・マスターからの最新リマスター版がリリースされました。

『フー・アー・ユー』は、ザ・フーの音楽的な進化と、キース・ムーンの終焉が重なり合った、複雑な背景を持つ作品です。重厚なサウンドと、メンバーそれぞれの苦悩が込められた本作は、ザ・フーの歴史において重要な位置を占めています。

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