ブカ・キュレゲン

ブカ・キュレゲン：チンギス・カンに仕えたバヤウト部族の千人隊長

ブカ・キュレゲン（生没年不詳）は、13世紀初頭にチンギス・カンに仕えたバヤウト部出身の有力者であり、千人隊長を務めました。彼の名前は、漢文史料では『元朝秘史』に「不合古咧堅(bùhé gŭliējiān)」、『元史』に「普化(pŭhuà)」と記され、ペルシア語史料では「بوقا گورکان(Būqā gūrkān)」と記録されています。

バヤウト部族について

『集史』「バヤウト部族志」によると、バヤウト部は大きく分けて2つの系統が存在します。一つはジダ川流域に住まうジェデイ・バヤウト、もう一つは草原に住まうケヘリン・バヤウトです。ブカ・キュレゲンは、このうちジェデイ・バヤウトの出身でした。

バヤウト部は、チンギス・カンが若い頃にジャムカと戦った十三翼の戦いにおいて、チンギス・カン側の一翼を担い、勇敢に戦いました。その功績により、チンギス・カンはバヤウト部に「譜代家人」の称号を与え、チンギス・カン一門とバヤウト部の間で婚姻関係を結ぶ習慣が確立されました。

キュレゲン（婿）の意味

「キュレゲン」とは「婿」を意味する単語であり、ブカ・キュレゲンもチンギス・カン家の女性を娶った人物であると考えられています。このことは、『集史』「バヤウト部族志」の記述からも裏付けられます。モンゴル帝国（大元ウルス）において、バヤウト部は代々后妃を輩出するようになり、モンケとクビライの側室となったバヤウジン、テムルの皇后となったブルガン、トゴン・テムルの皇后となったダナシリらは皆バヤウト部の出身でした。

特に、テムルの皇后ブルガンはブカ・キュレゲンの子のトルクスの娘であり、病弱な夫に代わって実質的に朝政を取り仕切ったことで知られています。彼女の政治手腕は、当時のモンゴル帝国に大きな影響を与えました。

バヤウト部ブカ・キュレゲン家系図

ブカ・キュレゲン（Buqa Küregen ＞不合古咧堅/bùhé gŭliējiān,بوقا گورکان/Būqā gūrkān）
トルクス・キュレゲン（Torqus Küregen ＞脱里忽思/tuōlǐhūsī）
ブルガン・カトン（Bulγan qatun ＞卜魯罕/bŭlŭhǎn,بولوغان خاتون/Būlūghān khātūn）

ブカ・キュレゲンの一族は、チンギス・カン一族との婚姻関係を通じてモンゴル帝国の政治に深く関与し、その後の歴史に大きな足跡を残しました。

参考文献
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
* 村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年

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