テムル

テムル：モンゴル帝国の平和を願った皇帝

テムル（1265年 - 1307年）は、モンゴル帝国の第6代カアンであり、元朝の第2代皇帝として知られています。彼の名はモンゴル語で「鉄」を意味し、その生涯は帝国の安定と平和に尽力しました。

生涯

テムルは、クビライの息子チンキムの三男として生まれました。父と祖父からの深い愛情を受け、特に次兄ダルマバラの早世後、後継者として有力視されるようになります。カダアンの乱では鎮圧軍の総司令官を務め、この時の経験が後の政治に大きな影響を与えました。

1293年、テムルはモンゴル高原駐留軍の司令官に任命され、中央アジアからの侵攻に備えます。翌年クビライが崩御すると、クリルタイでカアンに選出され、帝位を継承しました。

カイドゥの侵攻との戦い

即位後、テムルはカイドゥの激しい侵攻に直面します。彼は兄のカマラや従兄弟のアナンダを高原に派遣し対抗しますが、当初は苦戦を強いられます。しかし、次第にカイドゥの勢力を見限る王族や貴族が現れ、元朝への投降が相次ぎました。

1301年、カイドゥは全勢力を挙げて高原に侵攻しますが、テムルはカイシャンらを派遣し、カラコルムとタミールでの戦いで勝利を収めます。カイドゥの死後、チャガタイ家のドゥアがカイドゥの子チャパルを説得し、テムルに服属を申し出ました。1305年、テムルはこれを受け入れ、クビライの時代から分裂していたモンゴル帝国に45年ぶりの平和が訪れたのです。

日本との関係

テムルは1299年に禅僧の一山一寧を日本へ派遣し、朝貢を促しました。この姿勢はクビライの時代よりも緩和されたもので、武力による制圧を意図していなかったと考えられます。しかし、鎌倉幕府は一山一寧を抑留し、元朝の要求に応じませんでした。これが元朝が日本へ派遣した最後の使節団となりました。

晩年と死

テムルの政権では、ムスリム官僚のバヤンが財務を担い、クビライ時代の制度が踏襲されました。しかし、宮廷の浪費や税収の減少により、元朝の財政は慢性的な赤字に悩まされるようになります。

テムル自身も、飲酒と荒淫により次第に病気がちとなり、政務を執ることが困難になりました。皇后のブルガンが権勢を振るうようになり、政治は混乱を極めます。1307年にテムルが崩御すると、ブルガンはアナンダを擁立しようとしましたが、カイシャンとアユルバルワダ兄弟による政変が起こり、最終的にカイシャンが帝位を継承しました。

テムルの治世は、帝国の平和と安定に貢献した一方で、財政難や宮廷内の権力争いなど、多くの課題を残しました。しかし、彼の平和への願いは、モンゴル帝国の歴史において重要な意味を持っています。

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