ブシャン包囲戦

ブシャン包囲戦の詳細

ブシャン包囲戦は、スペイン継承戦争における重要な局面の一つで、1711年8月5日から9月12日にかけて、現在のフランス・ノール県に位置するブシャン（当時は南ネーデルラントのエノー伯領）で繰り広げられました。この戦いは、イギリス、オーストリア、オランダからなる同盟軍と、フランス軍との間で激しい攻防が展開されました。

戦いの背景

1709年のマルプラケの戦い以降、大規模な衝突は避けられ、同盟軍は北フランスの防衛線突破を、フランス軍はそれを阻止しようと、両軍は防衛線を巡る駆け引きを続けていました。しかし、イギリス国内では、戦争の長期化による厭戦気分が高まり、トーリー党がフランスとの和睦を主張するようになります。アン女王もこの意見に賛同し、1710年にはホイッグ党の勢力を弱める動きが活発化しました。

一連の政変により、マールバラ公ジョン・チャーチルの地位も危うくなります。彼はプリンツ・オイゲンと共にドゥエー、ベテューヌなどを陥落させ着実に南へ進軍していましたが、イギリス本国の方針転換を悟り、更迭される前に戦果を上げようと奔走しました。

戦いの経過

1711年、フランス軍のヴィラールは防衛線を南に下げ、同盟軍をカンブレーで待ち構えます。しかし、フランス政府が神聖ローマ皇帝選挙に圧力をかけるため、ヴィラールの軍勢の一部をドイツへ派遣、オイゲンもドイツへ移動したため、戦力はいくらか減少しました。マールバラ公はドゥエーから西進してランスに移り、7月6日に防衛拠点アルルーを落としますが、ヴィラールに奪還され、振り出しに戻ります。

マールバラ公は、アラス攻撃の準備を装い、フランス軍を欺く作戦を実行。アラスへ向かうと見せかけ、東へ戻りアルルーへ急行します。アルルーは、ドゥエーに残った同盟軍の伏兵によって奪還され、同盟軍は防衛線の一角を崩すことに成功しました。ヴィラールは直ちにアルルーへ駆けつけますが間に合わず、カンブレーへ撤退。同盟軍はアルルーから東進し、ブシャンを包囲します。

ブシャンは湿地帯に位置し、5000の守備隊が3万の包囲軍に抵抗しました。ヴィラールは分遣隊を派遣し、包囲軍の西側を占拠、ドゥエーとブシャンの連絡を脅かしますが、マールバラ公は反撃に出て、逆にフランス軍分遣隊を威圧し、補給路を確保します。8月18日に攻撃が開始され、ヴィラールは補給隊襲撃を繰り返しますが、包囲を阻止できず、9月13日、ブシャンの守備隊は降伏しました。

戦いの後

マールバラ公はヴィラールに勝利しましたが、本国の命令で司令官を罷免され、二度と大陸遠征には向かえませんでした。後任のオーモンド公はトーリー党の意向を受け不戦の態度を取り、同盟軍に協力せず、ヴィラールに内通するようになります。1712年にイギリスとフランスの和睦が成立し、イギリス軍は大陸から撤退。残された同盟軍はヴィラールに敗北し、戦争は終結に向かいました。

ブシャン包囲戦は、マールバラ公の卓越した戦略によって同盟軍が勝利を収めたものの、イギリス本国の政変がその後の戦争の行方を大きく左右する結果となりました。

参考文献
* 友清理士『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史』彩流社、2007年。

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