ブニェヴァツ人

ブニェヴァツ人：歴史と文化、アイデンティティの変遷

ブニェヴァツ人は、主にセルビア・ヴォイヴォディナ地方のバチュカ地方、およびハンガリー南部のバーチ・キシュクン県に居住する南スラヴ系の民族集団です。その起源は16世紀から17世紀にかけてのヘルツェゴヴィナ地方からダルマチア地方、そしてバチュカへの移住に遡ります。

起源と呼称

ブニェヴァツ人の起源については、ヘルツェゴヴィナ地方を流れるブナ川に由来するという説が有力です。また、ダルマチア地方の伝統的な石造りの家「ブニャ」に由来するという説も存在します。彼らは自らをブニェヴツィと呼び、クロアチア語やセルビア語でも同様に呼ばれます。

歴史

近代以前

ブニェヴァツ人がバチュカ地方に初めて住み着いたのは16世紀とされています。オスマン帝国との戦いの中で、傭兵としてフランシスコ会修道士に率いられ、ダルマチア地方から移住してきたという記録も残っています。18世紀には、オーストリアの国勢調査で「イリュリア人」として記録され、19世紀には「ダルマチア人」と呼ばれることもありました。

ユーゴスラビア時代

第一次世界大戦後、ブニェヴァツ人はバナト、バチュカ、バラニャ地方のハンガリー王国からの離脱とセルビア王国への統合を決定しました。その後、セルビア人・クロアチア人・スロベニア人王国（ユーゴスラビア王国）が成立し、ブニェヴァツ人はクロアチア人と同じ国の国民となりました。しかし、第二次世界大戦後、ユーゴスラビア共産党はブニェヴァツ人をクロアチア人の一部とみなし、独自の民族性や言語が否定される時期がありました。

ユーゴスラビア崩壊後

1990年代のユーゴスラビア崩壊の中で、ブニェヴァツ人は再び独自の民族として認められるようになりました。しかし、民族自認をめぐる問題は未だ解決されておらず、「ブニェヴァツ人」としてのアイデンティティを持つか、「クロアチア人」としてのアイデンティティを持つかで意見が分かれています。

文化

ブニェヴァツ人の文化的な中心地はスボティツァであり、伝統的な祭りが数多く残っています。代表的なものとして、作物の収穫を祝う「ドゥジヤンツァ」や、家族の守護聖人を祝福する「クルスノ・イメ」などがあります。また、バチュカ地方の伝統的な農場であるサラシュは、ブニェヴァツ人のアイデンティティを象徴するものとして重要視されています。

言語

ブニェヴァツ人の大部分はカトリック教徒であり、シュト方言のイ方言に属する言語を話します。この言語は「ブニェヴァツ語」あるいは「ブニェヴァツ方言」と呼ばれ、特徴的な古風な表現が残っています。

現代のブニェヴァツ人

現在、セルビアのヴォイヴォディナ地方ではブニェヴァツ人は構成民族の一つとして認められています。しかし、ハンガリーでは独自の少数民族とは認められておらず、クロアチア人として扱われています。ブニェヴァツ人の民族自認をめぐる問題は、現代社会においても依然として議論の的となっています。

ブニェヴァツ人の歴史は、移住と統合、そしてアイデンティティの模索の歴史と言えるでしょう。彼らの文化と伝統は、南スラヴ世界の多様性を豊かに彩っています。

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