ブラウン塾

ブラウン塾（ブラウンじゅく）は、明治時代初期の日本において、キリスト教の指導者育成に重要な役割を果たした私塾形式の神学校です。この塾は、アメリカ・オランダ改革派教会から派遣された宣教師、S・R・ブラウンによって、1873年（明治6年）に横浜の山手地区に開設されました。

歴史的経緯

ブラウン氏は、それまで教師を務めていた修文館との契約が終了したのを機に、横浜山手211番地に自身の教育の場としてブラウン塾を設立しました。この設立の背景には、日本におけるキリスト教の布教と自立した教会の形成には、日本人指導者の育成が不可欠であるという認識がありました。

設立当初から、ブラウン塾には日本のキリスト教史において極めて重要な人物たちが集まりました。特に注目すべきは、同時期に活動していたバラ塾から合流した人々です。奥野昌綱、押川方義、熊野雄七、植村正久、藤生金六、雨森信成、本多庸一といった面々がブラウン塾に加わり、ブラウン氏の指導を受けました。これらの塾生たちは、後に日本のプロテスタント教会やキリスト教関連教育機関の中心的な指導者として多大な影響力を持つことになります。

塾の教育体制は徐々に強化されました。1876年（明治9年）には、宣教師アメルアンが講師に迎え入れられ、神学教育の内容がさらに充実しました。神学だけでなく、聖書、歴史、語学など、幅広い分野が教えられたと考えられます。その他にも、E・R・ミラー、J・H・バラ、ハティ・ブラウン（S・R・ブラウンの妻）、ハリエット・ウィンといった宣教師たちが講師として教壇に立ち、塾の運営と教育を献身的に支えました。

しかし、ブラウン塾としての活動期間は比較的短いものでした。1877年（明治10年）、複数のミッションが協力してより組織的な神学教育機関を設立しようという動きが起こり、東京の築地に新たな神学校、東京一致神学校が設立されることになりました。ブラウン塾は、その教育資源や人材をこの東京一致神学校に統合する形で閉校しました。

意義と後継

ブラウン塾が短期間ながら日本のキリスト教界に与えた影響は計り知れません。ここで学んだ多くの人々が、後の日本の教会形成、教育、社会事業など多方面で指導的な役割を果たしました。彼らの活動は、明治期の日本の近代化におけるキリスト教の普及と定着に大きく貢献しました。特に、植村正久は後に東京神学社を設立し、日本の神学教育の発展に尽力しました。

ブラウン塾の教育の系譜は、閉校後に合流した東京一致神学校へと引き継がれました。この東京一致神学校は、その後、日本の神学教育界の変遷と共に発展を続けました。具体的には、明治学院神学部（1930年まで存続）、東京神学社（同じく1930年まで存続）といった形でその流れが受け継がれました。さらに、これらの神学校が統合される形で日本神学校（1930年設立、1943年まで）、日本東部神学校（1943年設立、1944年まで）、日本基督教神学専門学校（1944年設立、1949年まで）と改称・再編を繰り返し、最終的には1949年に設立された東京神学大学へと結実しています。

つまり、ブラウン塾は、今日の日本のプロテスタント神学教育を代表する最高学府の一つである東京神学大学の、重要な源流の一つと言えるでしょう。その精神と教育方針は、形を変えながら現代に引き継がれています。

かつてブラウン塾があった横浜山手211番地の跡地には、現在、ミッション系の女子教育機関である横浜共立学園が立地しており、歴史的なつながりを感じさせます。

もう一度検索