ブラック・ウィドウ (映画)

『ブラック・ウィドウ』

2021年に公開されたアメリカのスーパーヒーロー映画で、マーベル・コミックの人気キャラクター、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフを主人公としています。マーベル・シネマティック・ユニバース（MCU）シリーズの記念すべき24作目にあたり、「マルチバース・サーガ」の序章を飾る作品となりました。ケイト・ショートランドが監督を務め、スカーレット・ヨハンソンが主演を務めています。新型コロナウイルスの世界的な流行の影響を受け、当初の予定から度重なる延期を経て、2021年7月9日（日本では一日早い7月8日）に劇場公開されると共に、Disney+のプレミアアクセスでも有料での同時配信という形式が取られました。

ストーリー

物語は、ナターシャ・ロマノフの秘められた過去に光を当てます。幼少期、彼女はロシアの諜報員として、妹とされたエレーナ、父を演じたスーパーソルジャーのアレクセイ（レッド・ガーディアン）、そして母を演じたウィドウのメリーナと共に、アメリカ・オハイオ州で偽装家族として任務に就いていました。1995年、任務完了後にS.H.I.E.L.D.の追跡を逃れキューバへ渡った彼らは、そこで強制的に離れ離れとなり、偽りの家族としての関係は終焉を迎えます。

時は流れ2016年、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でのアベンジャーズの内部分裂事件を経て、ナターシャはソコヴィア協定違反者として、国務長官サディアス・ロスをはじめ世界中から追われる立場にありました。友人のメイソンに手配を依頼し、ノルウェーの隠れ家で潜伏を図るナターシャでしたが、ほぼ同時期に、かつての妹エレーナから送られてきた“レッドダスト”という合成ガスを狙うタスクマスターの襲撃を受けます。相手の動きを完璧に模倣する能力を持つタスクマスターに苦戦しつつも、レッドダストを守り抜いたナターシャは、送り主であるエレーナとハンガリーのブダペストで再会します。

ナターシャはエレーナとの再会を通じて、かつて自らが関与し、壊滅させたと思い込んでいた暗殺者養成機関レッドルームが、その冷酷な支配者ドレイコフと共に依然として活動している驚くべき事実を知ります。レッドルームを完全に葬ることを決意したナターシャは、隠された本部を見つけ出すため、メイソンが用意したヘリコプターでロシアへと向かいます。まず、かつて父を演じ、現在は投獄されているアレクセイを脱獄させますが、彼もまたレッドルームの現在の所在地に関する情報を知りませんでした。そこで一行は、かつて母を演じ、現在はサンクトペテルブルク郊外の農場で暮らすメリーナのもとを訪ねます。こうして、かつて離散した偽装家族は図らずも再集結を果たすこととなります。

メリーナは一行の居場所をドレイコフに密かに通報しており、ドレイコフの差し向けた手により、ナターシャたちは空中に浮かぶレッドルーム本部へと連行されてしまいます。しかし、メリーナは事前にS.H.I.E.L.D.の技術を用いてナターシャと入れ替わっており、本部内で囚われたアレクセイとエレーナを解放します。その間、ナターシャはドレイコフ本人と直接対峙します。ドレイコフはウィドウたちが自分に危害を加えることができないよう、フェロモンを用いた特殊な洗脳（フェロモン・ロック）を施して操っていましたが、その能力に慢心し、自らの手の内を明かしてしまったことで、ナターシャに反撃の機会を与えます。さらにメリーナの内部工作によりレッドルームのエンジンが一基停止し、ドレイコフは撤退を強いられます。ナターシャは激しい戦闘の末、囚われていたウィドウたちの洗脳を解き放ち、彼女たちに関する情報を入手します。アレクセイとエレーナはタスクマスターを制圧し、崩壊が始まったレッドルームからの脱出を図ります。アレクセイとメリーナは脱出に成功し、エレーナは追撃してきたドレイコフを倒します。ナターシャはエレーナを救出した後、タスクマスターと最後の空中戦を繰り広げ、レッドダストを使用して彼女をアントニアとしてドレイコフの支配から解放することに成功します。

一連の戦いを終え、ナターシャは自らを追跡するロス長官率いる部隊が接近しているのを察知します。彼女はレッドダストをエレーナに託し、まだ洗脳されている他のウィドウたちの解放を委ねます。偽装家族としての絆を感じながら彼らに別れを告げたナターシャは、離れ離れとなったアベンジャーズというもう一つの家族を救うため、再び一人追われる身として旅立つことを選びます。それから二週間後、メイソンから提供されたクインジェットに乗り込んだナターシャは、囚われているアベンジャーズの仲間を救出するため、大空へと飛び立っていきました。

ポスト・クレジット・シーンでは、『アベンジャーズ/エンドゲーム|アベンジャーズ_エンドゲーム』後の世界が描かれます。ナターシャの墓碑を訪れたエレーナの前に、謎めいた女性ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ伯爵夫人が姿を現します。ヴァレンティーナはエレーナに対し、ナターシャの死にはクリント・バートン（ホークアイ）が関係していると示唆し、彼への復讐を唆すのでした。

登場人物

主要な登場人物には、過去の清算に挑む主人公ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ（演：スカーレット・ヨハンソン）、レッドルームで訓練を受け、ナターシャを姉のように慕うエレーナ・ベロワ（演：フローレンス・ピュー）、ソ連が生み出したスーパーソルジャーで、偽装家族では父を演じたアレクセイ・ショスタコフ/レッド・ガーディアン（演：デヴィッド・ハーバー）、経験豊富なウィドウであり科学者、偽装家族では母を演じたメリーナ・ヴォストコフ（演：レイチェル・ワイズ）などがいます。彼らは共にレッドルームの支配者ドレイコフ（演：レイ・ウィンストン）と対峙します。また、相手の能力をコピーする暗殺者タスクマスター（演：オルガ・キュリレンコ）は、物語の鍵を握る存在として登場します。

設定・用語

物語の重要な要素として、女性暗殺者を育成・支配する秘密組織レッドルーム、ウィドウたちの洗脳を解除する化学物質レッドダスト、ドレイコフがウィドウたちに施した身体的拘束フェロモン・ロックなどがあります。また、ナターシャやエレーナが使用するウィドウズ・バイトなどの装備や、劇中で登場する様々なビークルも作品世界を彩っています。

公開と影響

本作の公開は、新型コロナウイルスのパンデミックにより大きく影響を受けました。度重なる公開延期の末、劇場公開とDisney+での有料同時配信という異例の形式が取られました。特に日本では、大手シネマコンプレックスチェーンの多くが同時配信に反対し、限定的な公開となりました。この同時配信は、北米でのオープニング興収（8000万ドル）に加え、Disney+プレミアアクセスからも6000万ドルの収入を得るなど一定の成果を上げた一方、公開第2週に北米興収が大きく落ち込んだ原因の一つとして、違法な海賊版の流出が指摘されました。さらに、主演のスカーレット・ヨハンソンが、劇場興収に比例する形で報酬を受け取る契約であったため、同時配信によって生じた損失を巡りウォルト・ディズニー・カンパニーを提訴するという事態に発展しましたが、その後和解が成立しています。これらの経緯は、今後の映画業界における劇場公開とストリーミング配信の関係性に一石を投じる形となりました。2021年10月6日からは、Disney+の見放題作品として配信が開始されています。

この作品は、ブラック・ウィドウというキャラクターの過去に深く踏み込み、彼女が抱える罪やトラウマ、そして偽装家族との絆を通じて、自己を解放し、新たな一歩を踏み出すまでの道のりを描いています。同時に、MCUにおけるナターシャの物語に区切りをつけ、エレーナをはじめとする新たなキャラクターに未来を繋ぐ役割も果たしています。

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