ブリティッシュ・サウンズ

『ブリティッシュ・サウンズ』（British Sounds）は、1969年3月、ジャン＝リュック・ゴダールとジャン＝アンリ・ロジェを中心とした「ジガ・ヴェルトフ集団」が制作したイギリスのテレビ映画です。ロンドン・ウィークエンド・テレヴィジョン（LWT）のために制作されましたが、完成版の放送は拒否され、一部のみが公開されるという経緯があります。

本作は、「ジガ・ヴェルトフ集団」の活動の中で、アメリカでの作品制作に続くイギリスでの第二作にあたります。第一作『あたりまえの映画』を経て、アメリカでの『ワン・アメリカン・ムービー』制作後、ロンドンで制作された本作は、これまでのゴダール作品とはまた違った側面を見せています。

映画は、MG社の自動車工場の生産ラインから始まります。長回しによって撮影された生産ラインは、不協和音の音楽と、カール・マルクスの『共産党宣言』の朗読によって、資本主義社会のメカニズムを象徴的に表現しています。その後、シーンは移り変わり、全裸の女性が住居内を歩き回る映像にはフェミニストのテキストが重ねられます。ニュースキャスターによる資本家批判や、活動家たちの討論など、多様な視点が交錯する構成となっています。撮影はロンドンのほか、エセックス州コルチェスターなどでも行われました。最後は、ユニオンジャックを拳で突き破るカットが繰り返し映し出され、映画は幕を閉じます。

この作品は、明快なメッセージを持ちながらも、その図式的な表現手法が特徴的です。ゴダールとロジェの共同監督により、社会への鋭い批判と実験的な映像表現が見事に融合しています。当時まだ19歳だったジャン＝アンリ・ロジェにとって、ゴダールとの共同作業、そしてイギリスのテレビ番組制作スタッフとの初めての経験となりました。

製作においては、ケニス・トロッドがプロデューサーとして尽力しました。彼は、1968年8月に開局したLWTに番組を供給するため、「ケストレル・プロダクションズ」社を設立したばかりでした。本作はLWTからの放送拒否という結果に終わりましたが、トロッドはその後も、パット・オコナー監督の『ひと月の夏』、ピーター・ホール監督の『おかえりなさい、リリアン』といった作品をプロデュースし、成功を収めています。また、撮影監督のチャールズ・スチュワートと録音技師のフレデリック・シャープも、後にケン・ローチ監督の作品に参加しています。

『ブリティッシュ・サウンズ』は、上映時間54分のカラー作品（16mm）で、アスペクト比は1:1.37（スタンダードサイズ）です。出演者には、ロンドンの工場労働者や活動家などが名を連ねています。ジガ・ヴェルトフ集団による脚本、ゴダールとロジェの共同監督、チャールズ・スチュワートの撮影、エリザベス・コズミアンによる編集、フレデリック・シャープの録音、そしてアーヴィング・テイテルバウムとケニス・トロッドの製作によって、この実験的な映画は完成しました。

本作は、ゴダールと「ジガ・ヴェルトフ集団」がパリ、バークレー、ニューヨーク、ロンドン、ローマ、パレスティナと精力的に活動していた時期の作品です。わずか2年間に渡る彼らの旅の軌跡を象徴する作品として、『ブリティッシュ・サウンズ』は、ゴダール作品の中でも特異な存在感を放っています。その実験的な映像表現と社会への強いメッセージは、現代においても多くの観客を魅了し続けています。放送拒否という結果に終わったものの、映画史における重要な一作として、その価値は揺るぎないものとなっています。

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