ワン・アメリカン・ムービー

激動の1960年代アメリカを捉えた幻のドキュメンタリー

1968年、ヌーヴェルヴァーグの巨匠ジャン＝リュック・ゴダールと、アメリカ人映画作家D・A・ペネベイカーが共同で制作に取り組んだドキュメンタリー映画『ワン・アメリカン・ムービー』。後に『1PM』として公開されるこの作品は、現在も日本未公開であり、その存在はゴダール監督作品として知られています。

ゴダールとペネベイカーの出会いから

ペネベイカーは1960年代初頭、パリ滞在中にゴダールと出会い、映画製作を共同で行う計画が持ち上がりました。初期段階では準備が進みましたが、頓挫。数年後、ゴダールから再びオファーがあり、アメリカ公共放送PBSの資金提供も得て、プロジェクトが本格的に始動します。

ベトナム反戦運動と激動の時代

ゴダールは、ベトナム反戦運動がアメリカでも拡大すると予想。1968年、カリフォルニア州バークレー、ニューヨークのウォール街とハーレム、ニュージャージー州ニューアークで撮影が行われました。

本作の主要な内容は、当時の著名な活動家たちへのインタビューです。ブラックパンサー党のエルドリッジ・クレヴァー、反戦活動家のトム・ヘイデン、企業弁護士ポーラ・マダーなど、時代を象徴する人物が登場。とりわけ、クレヴァーはインタビュー後に党を離れアルジェリアに亡命、ヘイデンは同年シカゴで行われた民主党全国大会での反戦デモで逮捕され「シカゴ・セブン」の一員となります。

多彩な登場人物たち

インタビュー対象者は、活動家だけでなく、のちにユニセフ執行理事となるキャロル・ベラミー、詩人のエイミリ・バラカ、ゴダール監督作品のプロデューサーとなるトム・ラディ、ロックバンドジェファーソン・エアプレインのメンバー、そしてゴダールの妻であったアンヌ・ヴィアゼムスキーなど多様な顔ぶれです。

ゴダールの完成放棄とペネベイカーによる完成

撮影後、ゴダールは完成を放棄し、「ジガ・ヴェルトフ集団」の活動に専念。一方、ペネベイカーは貴重なフィルムを編集し続け、1971年に編集作業を終え、1972年2月10日、『1PM』と改題の上、アメリカで公開されました。

ヘイデンは、ゴダールが後に制作した作品にも関わることになります。「シカゴ・セブン」裁判は、ゴダール監督の『ウラジミールとローザ』に影響を与えたといわれています。ヘイデンはのちに女優ジェーン・フォンダと結婚、息子のトロイ・ギャリティは俳優として活躍しています。

日本未公開、貴重な記録

『1PM』は、1960年代後半のアメリカ社会、特に反戦運動や黒人解放運動といった激動の時代を捉えた貴重なドキュメンタリーです。ゴダールとペネベイカーという異色の監督コンビによる、日本未公開の作品は、歴史的にも重要な意味を持つと言えるでしょう。カラー、16mmフィルム、上映時間95分。スタッフ、キャストには、当時の著名な活動家、アーティスト、音楽家などが名を連ねています。現在、インターネットアーカイブなどを通じて、その一部が閲覧できる可能性があります。

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