ブリ語 (インドネシア)

ブリ語の概要

ブリ語は、インドネシア共和国ハルマヘラ島で話されているオーストロネシア語族の言語です。ハルマヘラ島周辺では、ブリ語以外にもいくつかのオーストロネシア語が話されています。ブリ語は、これらの言語の中でも比較的早くから研究され、記述されてきた言語の一つです。

分類

ブリ語は、オーストロネシア語族に属します。過去にはインドネシア語派や西ニューギニア語群に分類されていましたが、近年の研究では、ハルマヘラ島周辺の言語との関連性が重視されています。特に、Wajamli語やKajoa語はブリ語の方言として扱われる傾向があり、Bitjoli語やウェダ語はそれぞれマバ語やサワイ語の別名と見なされることもあります。ギマン語と東マキアン語は、南ハルマヘラ諸語という別のグループに属すると考えられています。

音声

子音

ブリ語の子音は、[p]、[b]、[m]、[t]、[d]、[n]、[t͡ʃ]、[d͡ʒ]、[ɲ]、[k]、[ɡ]、[ŋ]、[f]、[h]、[s]、[r]、[l]、[w]、[y]の19種類が確認されています。

母音

母音は[a]、[ə]、[e]、[i]、[o]、[u]の6種類で、[ə]以外の5種類には対応する長母音も存在します。

パプア諸語からの影響

ブリ語の「飲む」を意味する語domは、マレー・ポリネシア祖語の(❛i-)numから派生したと考えられます。しかし、nがdに変化したことは、通常の音韻変化としては例外的な現象です。この変化は、近隣で話されているパプア諸語からの影響と考えられています。例えば、ガレラ語のudoやロロダ語のudomoといったパプア諸語で「飲む」を意味する語と類似しています。

文法

代名詞

ブリ語の所有代名詞は、所有対象によって形態が変化します。具体的には、親族や身体部位、物や道具、飲食物やタバコ、眉といった対象によって異なる形をとります。

この特徴は、一見するとフィジー語やキリウィナ語、ナウル語などのメラネシア語に似ているように見えます。しかし、ブリ語には-ni(-)、-na(-)という属格指示詞があり、これはポリネシア語の特徴であり、メラネシア語には見られないものです。崎山理は、この特徴を根拠に、ブリ語は本来はポリネシア語的な言語であり、マレー系言語との接触によって変化していったという仮説を提唱しています。

語彙

借用語

ブリ語には、サンスクリット語（例: naga「龍」）、アラビア語（例: waktu「時間」）、スペイン語・ポルトガル語（例: kastəra「とうもろこし」）からの借用語が見られます。これらの借用語は、インドネシア語（マレー語）を経由してブリ語に取り入れられたと考えられています。

参考文献

Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Buli (Indonesia)”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History.
Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
崎山理「マライ・ポリネシア語族におけるブリ語（ハルマヘラ島）の系統」 『南島語研究の諸問題』弘文堂、1974年、196–222頁。
Maan, G. (1951). Proeve van een Bulische spraakkunst. (Verhandelingen van het Koninklijk Instituut voor Taal, Land en Volkenkunde, 10.) The Hague: M. Nijhoff.
Meillet, A & M. Cohen (1952). Les langues du monde. Paris.
Salzner, R. (1960). Sprachenatlas des indopazifischen Raumes. Wiesbaden.

もう一度検索