ブリ連鎖球菌症

ブリ連鎖球菌症

ブリ連鎖球菌症（ぶりれんさきゅうきんしょう）は、養殖されているブリやヒラマサといったブリ属の魚類に大きな被害をもたらす細菌性の感染症です。この病気の原因は、Lactococcus garvieae（ラクトコッカス・ガルビエ）という種類の細菌による感染です。この細菌は、特に養殖環境下で魚から魚へと広がりやすく、一度発生すると急速に蔓延して多数の魚が死に至ることもあります。このため、養殖業においては非常に警戒されるべき病気の一つとされています。また、この病気は、病原体が溶血性（赤血球を破壊する性質）を示さないことから、「α溶血性連鎖球菌症」と呼ばれることもあります。

症状

この病気に感染した魚には、様々な症状が現れます。外見から確認できるものとしては、目の周りに出血が見られたり、鰓（えら）の蓋の内側に膿（うみ）が溜まった塊（膿瘍）が形成されたりすることが挙げられます。これらの症状は、病気が進行しているサインであり、魚の活力低下や食欲不振につながることがあります。

魚体を解剖して内部を詳しく調べると、さらに深刻な病変が見られます。心臓を覆う膜である心外膜に炎症が起きる心外膜炎や、病原菌が集まって膿を形成する化膿性炎、さらには異物や病原体に対する体の防御反応として組織内に小さな塊（肉芽腫）ができる肉芽腫性炎などが観察されます。これらの内臓における炎症は、魚の生理機能に大きな障害を与え、死の原因となります。

ブリ連鎖球菌症には、外見上は特に異常が認められないにもかかわらず、魚が突然、激しく泳ぎ回る（狂奔遊泳）といった異常行動を示した後に死亡する、「脳炎型」と呼ばれる病型も存在します。この脳炎型は、病原体が脳にまで達して炎症を引き起こすことで発症すると考えられており、予兆がほとんどないため、早期の発見や対応が非常に困難な場合が多いのが特徴です。

治療

ブリ連鎖球菌症の治療には、特定の抗生物質が効果的であることが知られています。具体的には、マクロライド系の抗生物質や塩酸リンコマイシンなどが、魚に餌と一緒に混ぜて与える経口投与という形で用いられます。これらの抗生物質は、原因菌であるラクトコッカス・ガルビエの増殖を抑え、病気の進行を食い止める効果が期待できます。ただし、抗生物質の適切な使用量や投与期間は、病気の進行度や魚の状態によって異なり、専門家の指導のもとで行われるべきです。また、抗生物質の乱用は耐性菌の出現を招く可能性があるため、慎重な対応が求められます。

予防

治療だけでなく、病気の発生を未然に防ぐ予防も非常に重要です。現在、日本国内では、ブリ連鎖球菌症に対する効果的なワクチンが市販されています。これらのワクチンには、原因菌であるラクトコッカス・ガルビエだけを対象とした「単味ワクチン」のほか、他の病原体に対するワクチンと組み合わせた「二種混合ワクチン」や「三種混合ワクチン」など、いくつかの種類があります。これらのワクチンを適切な時期に魚に接種することで、感染を予防したり、万が一感染した場合でも病気の症状を軽くしたり、死亡率を下げたりする効果が期待できます。ワクチン接種は、ブリ属魚類の養殖における主要な疾病対策の一つとして広く実施されています。

関連事項

ブリ連鎖球菌症の原因菌であるLactococcus garvieaeは、ラクトコッカス属に分類される細菌です。このラクトコッカス属には、魚類だけでなく、哺乳類やヒトにも感染症を引き起こす種類が存在します。また、「連鎖球菌症」という名称は、ブリ連鎖球菌症だけでなく、他の様々な連鎖球菌によって引き起こされる感染症を指す総称としても用いられます。ブリ連鎖球菌症は、その中でも養殖魚に特化した重要な病気の一つです。

ブリ連鎖球菌症に関するさらに詳しい情報は、専門書などで確認することができます。例えば、畑井喜司雄氏らが著した『魚病学』（学窓社、1998年）は、魚類の病気全般について学ぶ上で重要な参考文献となります。

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