ヴォルガ・ブルガール

ヴォルガ・ブルガールの概要

ヴォルガ・ブルガール（タタール語: İdel Bolğarı、ロシア語: Волжская Булгария）は、7世紀から13世紀にかけて存在した国家であり、その領域は現在のロシア連邦に位置します。この国はヴォルガ川とカマ川の合流点の周辺で繁栄し、ヴォルガ・タタール人やチュヴァシ人はその子孫とされます。特に、タタールスタン共和国およびチュヴァシ共和国はこのブルガールの文化的影響を色濃く残しています。

起源と歴史

ヴォルガ・ブルガールの起源については多くの情報が残されていないため、アラブやペルシア、インドの資料や考古学的発見に依存しています。この民族は、モンゴロイドとコーカソイドの混合種と考えられ、土地には先住していたフィン・ウゴル系の人々がいたとされています。

ブルガール人は、大ブルガリアから分離し、660年頃にアゾフ地方から移動を始め、8世紀にはヴォルガ川中流域にたどり着き、9世紀末には現地の人々を支配するようになりました。こうして、彼らは西へ進軍し、南スラヴ人と融合した結果、現在のブルガリアに至るドナウ川流域に根を張りました。

繁栄の時代

10世紀には、ヴォルガ・ブルガールの国教がイスラームに確定しました。アルムシュの治世のもとで、国交を樹立するためにアッバース朝から使節団が派遣され、法学者やモスク建設の支援を受けました。イブン・ファドラーンによる旅行記は、当時の生活や文化を知る重要な資料です。また、ヴォルガ川中流域の貿易拠点としても繁栄し、他のイスラーム世界の都市と並ぶ豊かさを持っていました。

その交流の中で、ヴォルガ・ブルガールは多様な民族との交易を行い、特にヴァイキングやウラル語族の民族との関係が深まりました。特に都市ブルガールは繁栄し、取引相手が広範囲に及びましたが、11世紀に入ると周囲からの軍事的脅威が増し始めます。

滅亡とその後

1236年、モンゴル帝国の軍勢がヴォルガ・ブルガールを攻め入ります。内乱の状態にあった国は、5年の歳月をかけて征服されました。その結果、ブルガールはジョチ・ウルスに組み込まれ、各公国に分割された後も、一定の自治権を持ち続けました。

1430年には、いくつかの公国が協力の元にカザン・ハン国を形成することになります。しかし、モンゴルの支配の下で住民の生活様式や言語は変化を必至とし、特にキプチャク系民族の影響を強く受けることになります。

ブルガールのアイデンティティと論争

ヴォルガ・ブルガールの記憶は、1552年のカザン・ハン国の滅亡以降も地域のムスリム住民のアイデンティティに大きな影響を与え続けました。19世紀には、歴史家たちがこの地域の過去に目を向け、様々な主張が繰り広げられました。特にチュヴァシ人などが自身の起源をブルガールに求める動きがあり、同時に民族論争を引き起こしました。

ソ連崩壊後もこの議論は続き、タタールスタンではブルガールからの連続性を強調する立場と地域的連続性を重視する立場の間で論争が起こっています。こうした背景には、歴史的なアイデンティティの再構築が求められていることが透けて見えます。全体的に、ヴォルガ・ブルガールの歴史は、その後の民族の出自や文化的影響を理解するために非常に重要な位置づけを持っています。

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