ブルゴーニュのブドウ畑のクリマ

ブルゴーニュのブドウ畑のクリマ：ワインの王国の歴史と文化遺産

フランスの世界遺産「ブルゴーニュのブドウ畑のクリマ」は、単なるブドウ畑ではなく、ブルゴーニュワインの卓越した品質を支える歴史と文化、そして自然環境が一体となった文化的景観です。1,247ものクリマと呼ばれる小さな区画から構成され、ワイン交易の中心地であるボーヌ市街や、かつてブルゴーニュ公国の首都として栄えたディジョン歴史地区も世界遺産に含まれています。

クリマ：テロワールの反映

「クリマ」(Climat)はフランス語で「気候」を意味する言葉ですが、ブルゴーニュでは、ブドウ栽培地の小さな区画を指します。それぞれのクリマは、土壌、日照時間、風向きなど、微妙に異なる条件を備えており、これらがワインの個性に深く影響を与えます。その土地固有の名前が付けられ、石垣や生け垣によって仕切られていることも少なくありません。地質学、土壌学、気候学的な観点からも、クリマごとの違いがワインの品質に影響することが実証されています。隣り合うクリマであっても、生み出されるワインは全く異なる味わい、香りを持つと言えるでしょう。日本語では「銘柄畑」と訳されることもあります。

歴史：修道士から現代へ

ブルゴーニュ地方でのブドウ栽培の歴史は古く、西暦1世紀まで遡ります。当初は平地で行われていましたが、5～6世紀頃からは傾斜地での栽培が始まりました。中世には多くの修道院が設立され、修道士たちがワイン栽培技術の向上に大きく貢献しました。特にシトー会修道士たちは、コート・ド・ニュイのヴージョなどにおけるブドウ園の発展に重要な役割を果たしました。

ブルゴーニュ公国が栄えた時代は、ブルゴーニュワインの名声が高まった時期と重なります。1395年にはフィリップ豪胆公がピノ・ノワールのみの栽培を許可し、ガメの栽培を禁止するなど、品質を重視した政策を展開しました。しかし、19世紀にはガメの栽培が一時的に盛んになる時期もありましたが、現代ではピノ・ノワールがコート・ドールの主要品種となっています。

フランス革命後、ブドウ畑は農民によって細分化され、相続によってさらに分割されていきました。現代のブルゴーニュのドメーヌ（ワイン生産者）が所有する農地は平均4ha程度と比較的小さく、一つのクリマを複数の生産者が共有していることがブルゴーニュワインの特徴の一つとなっています。これは、ボルドーなどの他のワイン産地とは対照的な点です。

19世紀にはうどんこ病やブドウネアブラムシの被害、20世紀には世界恐慌に見舞われましたが、ブドウ栽培技術の改良や生産者・愛好家の団体の設立などを通じて、ブルゴーニュワインは困難を乗り越えてきました。1934年に設立された「利き酒騎士団」は、ブルゴーニュワインの品質向上と普及に貢献しています。

登録対象：コート・ドールとディジョン

ブルゴーニュワインの産地はいくつかの地区に分けられますが、世界遺産登録対象はコート・ドール地域とその中心都市ディジョンです。コート・ドールはさらに、コート地区、オート・コート地区、ボーヌ平原に分けられますが、世界遺産登録は主にコート地区です。ディジョン歴史地区は、ブルゴーニュ公国の中心地として、このワイン生産システムの形成に重要な役割を果たしたことから登録されています。

コート・ド・ニュイ：グランクリュの宝庫

ディジョンの南に位置するコート・ド・ニュイは、多くのグランクリュ（特級畑）を擁する、ブルゴーニュでも重要なワイン生産地域です。シャンベルタン、ロマネ・コンティなど、世界的に有名なワインを生み出すブドウ畑が集中しており、これらの畑が並ぶ道は「グランクリュ街道」と呼ばれています。ヴージョにあるクロ・ド・ヴージョは、ブルゴーニュ最古のブドウ畑の一つとされています。

ボーヌ：ワインの首都

ボーヌはブルゴーニュワインの集散地であり、「ワインの首都」と呼ばれています。中世にはブルゴーニュ公が居住しており、現在もワイン博物館など、ワインに関連する施設が多く存在します。特に、ボーヌのホスピス（施療院）は、ブドウ畑からのワインの収益で運営されてきた歴史があり、現在もそのワインの競売が重要なイベントとなっています。

コート・ド・ボーヌ：多様なワイン

ボーヌを中心とするコート・ド・ボーヌは、コート・ド・ニュイよりもブドウ栽培面積が広く、赤ワインのグランクリュであるコルトン、白ワインのグランクリュであるコルトン＝シャルルマーニュ、モンラッシェなど、高品質のワインが生産されています。

その他の地域と登録経緯

オート・コート地区は、コート地区に比べて条件が厳しかったため、以前はあまり評価されていませんでしたが、近年は品質が再評価されつつあります。ボーヌ平原では多角的な農業が行われています。

この世界遺産の登録は、ワイン生産地としての価値、区画化された農業景観としての価値、原産地名称保護制度などの地理的表示に関する価値の3点から行われました。登録基準は「文化的伝統または文明の稀な証拠」と「伝統的集落、あるいは陸上利用の際立った例」の2つです。

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