ブルトン語レオン方言

ブルトン語レオン方言

ブルトン語レオン方言は、フランスのフィニステール県北西部のレオン地方で話されているブルトン語の一方言です。レオン方言は、大きく分けて西側のバ＝レオン（下レオン）と東側のオ＝レオン（上レオン）の2つの地域に分けられます。

方言学的な特徴

レオン方言は、ブルターニュ北東部を走るポントリユー・シャトーラン線の北西に位置しており、15世紀に起こった音位転換（例：nal < lan）を経験していません。このことから、レオン方言は保守的な方言であると言えます。

ただし、レオン方言は、南東からフランス語の影響を受けており、ブルトン語の他の方言との間に明確な境界線は存在しません。レオン方言は、東はモルレー付近でトレゴール方言と、南はエロルンに近づくほどコルヌアイユ方言と類似性を示します。

しかし、レオン方言内部でも、トーレ (Taulé) とプルエナン (Plouénan) のように、地域によって異なる下位方言が存在します。下レオンの方言は、上レオンの方言とは狭母音の前の喉音の硬口蓋化によって区別されます。例えば、「草」は下レオンでは geot、上レオンでは yeot と言います。

レオン方言は、これらの地域ごとの特徴を包含した集合体であり、比較的大きな同質性を示しています。

比較例

以下は、レオン方言と他のブルトン語方言、フランス語との比較例です。

フランス語: « Je lui avais dit de venir. »
コルヌアイユ方言: « Lart ma daon dont. »
トレゴール方言: « Laret moa d'ean don. »
レオン方言: « Lavaret am eus d'ezan dont. »
日本語: 「私は彼に来るように言った」

文語ブルトン語への影響

レオンは「司祭の土地」として知られ、多くの司祭や宣教師がサン＝ポル＝ド＝レオンの神学校で学びました。そのため、レオン方言で書かれた宗教的な著作が数多く存在します。レオン方言は、トレゴール方言と並んで、文語ブルトン語に大きな影響を与えました。

特に、ジャン＝フランソワ・ル・ゴニデックは、レオン方言を基に言語学的研究、辞書編纂、綴字法改革を行い、現代に至るまで文語ブルトン語に強い影響を与えています。

レオン方言の形態論

動詞の直説法および命令法現在2人称複数語尾が -it（ブルターニュの他の地域では -et）。
母音間のv、zが保存されているため、多くの動詞が長い形を保っている。
-out で終わる不定詞が一般に -vezoutに変化した。
存在動詞の古形ez eus（……がある）、edo（……にあった〔過去〕）が用いられる。
1人称単数の所有代名詞がしばしばvaである（ほかの方言では ma）。
語尾変化する前置詞の2人称単数語尾がレオンではしばしば -ezである。
語尾変化する前置詞の3人称複数語尾がレオンでは -oである。
内的複数 (pluriel interne) が多数：azen > ezen, oan > ein, ...

レオン方言の統語論

子音変異の体系は古典ないし文語ブルトン語のそれである。
所有詞azはときに軟音化を引き起こす。
動詞小辞がまれに省略される。
動詞「……である」と「行く」の定形が母音で始まるとき、動詞小辞a、eがそれぞれay、ezという形をとる。
所有形容詞を直接目的補語人称代名詞として使うことがある。
gの変異に由来するc’hの音が、kの変異に由来するそれと異なる。

レオン方言の音韻論

今日 と書かれる古い二重母音が、レオンでは /aw/ と発音される。
アクセントのあるeがレオンではしばしば /ea/ と二重母音化する。
歴史的な二重母音 が2音節の /oa/ になる。
が鼻音およびときにl、rの前で狭まり /u/ となる。
および と書かれる古い鼻母音はレオンでは非鼻母音化する。
iまたはeに先行する が /v/ と発音される。
「レオンのz」（歴史的な /ð/ からの変化に由来するz）は発音される。
語源的なhはレオンでは決して読まれない。
は荒っぽい無声口蓋垂摩擦音として発音される。
複数形語尾 , はそれぞれ /ʃu/, /ʒu/ となる。
に先行する , はしばしば /ʃ/ と発音される。
上レオンでは、若干の語で母音の混交 (contamination) が見られる。
多くの動詞がその不定詞において音位転換を示す。
rは一般に巻き舌である。
の連続はレオンでは /gr/ と発音される。