ブルースチール (ミサイル)

ブルースチール (Blue Steel)

ブルースチールは、冷戦期のイギリスが開発した重要な空対地巡航ミサイルです。戦略核兵器を運用する上で、当時の爆撃機は敵国の強力な防空網をいかに突破するかが大きな課題でした。これに対処するため、各国は爆撃機自体を危険に晒すことなく目標を攻撃できる、長距離のスタンドオフ能力を持つ空中発射型ミサイルの開発に注力しました。ブルースチールは、こうした背景の中でイギリスの核抑止力の一翼を担うために生まれました。

開発は航空機メーカーのアブロ社が担当し、電子技術の分野ではエリオット社が協力しました。ミサイルには、アメリカが開発したW28核弾頭をもとにイギリスが独自に改良したレッドスノー核弾頭が搭載されていました。この弾頭は1.1メガトンという強力な破壊力を持っていました。

ブルースチールは1963年に実戦配備が開始され、イギリス空軍の主力であった戦略爆撃機、アブロ バルカンとハンドレページ ヴィクターに搭載されました。これらの爆撃機は胴体下面の爆弾槽に1発のブルースチールを半埋め込みの形で装備しました。

しかし、運用開始当初からその射程には課題がありました。高高度から発射した場合でも最大射程が約240kmと短く、当時の最新鋭の地対空ミサイルの射程圏外から発射するには不十分だったため、目標へ接近する爆撃機は敵の迎撃リスクに依然としてさらされてしまうという問題が指摘されました。

この射程不足を解消するため、より長距離を飛翔可能な改良型であるブルースチールMk.2の開発が検討されましたが、技術的なハードルが高く開発は困難と判断されました。そこでイギリスは、アメリカ空軍が開発を進めていた長距離空対地弾道ミサイル、AGM-48 スカイボルトの導入に方針を転換しました。スカイボルトは最大射程が1,850kmにも達する計画であり、イギリスはこのミサイルによって将来の核抑止力を確保しようとしました。しかし、スカイボルト計画もまた技術的な問題と開発費の高騰により行き詰まり、1962年末にアメリカによって中止されてしまいました。

こうした状況の中、イギリスは新たな核抑止の柱として、レゾリューション級原子力潜水艦に搭載するポラリス潜水艦発射弾道ミサイルシステムの整備を進めていました。この潜水艦部隊がイギリス海軍に配備され、本格的な運用が開始されるまでの過渡期において、ブルースチールはイギリスの戦略核抑止力を維持するための重要な役割を担いました。一部のブルースチールには、低空からの発射に対応するための改修も行われました。

レゾリューション級原潜とポラリスミサイルの配備が進み、潜水艦による核抑止体制が確立されるにつれて、ブルースチールの戦略的な価値は相対的に低下していきました。そして、1970年12月31日をもって、ブルースチールは公式に運用を終了し、その歴史に幕を閉じました。

性能諸元

全長: 10.7 m
翼幅: 4 m
本体直径: 1.22 m
発射時重量: 3,300 kg
最大速度: マッハ 2.3
上限高度: 21,500 m
最大航続力: 240 km
誘導方式: 慣性誘導方式
CEP: 100 m
弾頭: レッド・スノー核弾頭 （1.1 Mt）
* エンジン: アームストロング・シドレー ステンター 液体燃料ロケットエンジン（燃料：ケロシン / 酸化剤：過酸化水素）

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