ブレット・ザ・ブルー・スカイ

アイルランド出身のロックバンド、U2の楽曲「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」は、彼らの名盤として名高い1987年発表のアルバム『ヨシュア・トゥリー』に収録されています。この楽曲は、力強いサウンドと直接的な政治的メッセージで知られ、バンドのキャリアにおいて重要な位置を占めています。

楽曲の背景

この曲が誕生するきっかけとなったのは、アムネスティ・インターナショナルが主催したチャリティツアー「希望の戦略」に参加した後、ボーカルのボノが妻アリと共にエルサルバドルとニカラグアを訪れた際の強烈な体験でした。彼らがそこで目の当たりにしたのは、自由という大義名分の下、アメリカ合衆国の支援を受けた権威主義的な政府が自国民に対して行っていた抑圧的な現実でした。この光景は、バンドがそれまで築き上げてきた国際的な名声の背景にあるアメリカの対外政策に対する痛烈な疑問を彼らに抱かせ、楽曲の根幹をなすテーマへと繋がっていきました。

歌詞には「His face red like a rose on a thorn bush」という一節が登場しますが、これは当時のアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンを暗に示唆しているとされています。楽曲自体はバンドによるジャムセッションを通じて自然発生的に生まれたとされていますが、元セックス・ピストルズのジョン・ライドンは、自身が率いるパブリック・イメージ・リミテッドの楽曲「Banging the Door」からの模倣であると指摘したこともあります。

「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」は、U2にとって初めてアメリカ合衆国の政策に対する直接的な批判を含んだ楽曲となりました。その歌詞のあまりのストレートさゆえに、最後のフレーズである「Because outside is America」を「Because outside is the world」に変更すべきか、最後まで検討が重ねられたといいます。しかし、最終的に元の歌詞で発表され、結果として本国アメリカでのセールスやバンドの名声に悪影響を与えることはありませんでした。また、歌詞中の一節「In the locust wind comes a rattle and hum」に含まれる「rattle and hum」は、バンドの次作アルバムおよびそれに伴うプロジェクトのタイトルとなり、この楽曲のライブ音源バージョンでは、イントロ部分にジミ・ヘンドリックスによるアメリカ国歌「The Star Spangled Banner」が引用されています。この曲は、バンドのマネージャーであるポール・マクギネスが個人的なお気に入りの一曲として挙げていることでも知られています。

ライブパフォーマンスでの変遷

シングルリリースされていないにもかかわらず、「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」は『ヨシュア・トゥリー』ツアー以降、『ヴァーティゴ』ツアーに至るまで、U2のライブにおいて欠かすことのできない定番曲として、ほぼ全ての公演で披露され続けてきました。ツアー初期には、しばしば「Running to Stand Still」と続けて演奏されるセットリストが組まれました。特に『ヨシュア・トゥリー』ツアーにおいては、ボーカルのボノが頻繁に手にしたスポットライトを観客席へ向け、ロナルド・レーガンやキリスト教原理主義の指導者であるジェリー・ファルエルといった人物に対する批判的なメッセージを投げかけました。

この楽曲は、その後もツアーごとにその性格やメッセージ性を変化させてきました。『ズーTV』ツアーではナチズムへの批判へとテーマが広がり、『エレヴェーション』ツアーでは、かつてのスポットライトを用いたパフォーマンスを復活させ、銃による暴力への批判を行いました。この際、ジョン・レノン暗殺に関連する映像や、当時の全米ライフル協会会長チャールトン・ヘストンの姿をスクリーンに映し出す演出が取り入れられました。2001年のフィラデルフィア公演では、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件の犯人ティモシー・マクベイの死刑執行がテレビ中継された出来事に触れ、「閉じられたテレビのネットワークで、抽選に選ばれた視聴者の前で、僕たちはティモシーがアメリカの腕に抱かれるところを見ている」と語りかけるなど、時事的な問題への言及も含まれました。『ヴァーティゴ』ツアーでは宗教的対立に焦点を当て、楽曲の締めくくりの歌詞を「The Hands That Built America」へと変更しました。そして『イノセンス＋エクスペリエンス』ツアーでは、世界的な金融危機に言及し、ウォール街やラスベガスの様子を映し出しながら、富裕層を批判する若かりし頃の自分と出会う、といった内容のスピーチを行うなど、常にその時代の社会問題を反映する形で演奏され続けています。

カバーバージョン

この楽曲は、他のアーティストによってもカバーされています。代表的な例としては、1999年に全てのメンバーがキリスト教徒であることで知られるラップメタルバンド、P.O.D.が、2003年にはブラジルを代表する人気メタルバンド、セパルトゥラがそれぞれカバーバージョンを発表しています。

評価

「ブレット・ザ・ブルー・スカイ」は音楽的にも高く評価されており、2004年にはイギリスの音楽雑誌『Mojo』が選定した「壮大なロックソング100」において、第17位にランクインしています。

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