ブローパイプ (ミサイル)

ブローパイプ

ブローパイプ（Blowpipe）は、1960年代にイギリスのショーツ社によって開発された携帯式防空ミサイルシステム（携SAM）です。射手が目視で目標を捉え、ミサイルを誘導するという独特な操作方法を採用しており、複数の国で運用されました。

開発の経緯

1960年代初頭、ショーツ社は将来的な需要を見越し、自社資金を投じて携SAMの開発に着手しました。1964年には、開発中の試験飛行体であるブローパイプに関するパンフレットを国防省に提出します。このミサイルは、同社が海軍向けに開発していたシーキャットミサイルで用いられた目視線指令誘導（CLOS）技術を基にしていました。

当時の国防参謀総長であったマウントバッテン元帥はこの開発に強い関心を示しましたが、イギリス空軍は陸軍部隊の航空機識別能力に懸念を抱き、敵味方識別装置（IFF）の搭載を要求しました。当時、このような兵器に関する明確な要求仕様は存在しなかったため、陸軍参謀本部は新たに参謀目標（NGST.3156）を設定しました。ブローパイプはこの目標に適合させるために何度かの設計修正が必要となり、その後、NGSR.3156として正式な要求段階に移行しました。

1968年からは国防省からの開発資金提供が開始され、航空省からRF.268という型番も付与されます。開発は順調に進み、1965年には最初のミサイル試射に成功。1966年9月のファーンボロー国際航空ショーで一般に公表されました。さらに1968年後半には、実際に射手が操作する有人システムでの試射が開始され、1972年には研究開発段階を終え、イギリス陸軍による最終評価へと進みました。同年には初期の量産契約が結ばれ、1974年に量産型システムが完成。翌1975年からイギリス陸軍での運用が始まりました。

開発当初、このミサイルは「ダガー」という名称で呼ばれていましたが、イギリスのミサイルに冷たい鋼を想起させる名前を付けるという当時の慣例に従い、メーカーが開発段階から使用していた「ブローパイプ」という名称が就役時に正式採用されました。

設計

ブローパイプ・システムは、ミサイルが封入され、そのまま発射筒を兼ねるキャニスターと、これに装着される照準装置の主要二つの部分から構成されます。ミサイル本体は、中央部に弾頭、機首先端に信管、弾体前部に誘導装置、後部にロケットモーターが配置される一般的な構造です。

誘導装置

ブローパイプの最大の特徴は、目視線指令誘導（CLOS）方式を採用している点です。これは、射手が目視で目標を追尾し、その視線上にミサイルを一致させるように操作する方式です。

ミサイル発射直後の初期段階（約2-3秒）では、ミサイルの排気口付近にある発光信号を照準装置が赤外線で探知し、自動的に追尾します。しかし、目標との距離がある程度離れると、射手が照準装置に付属するジョイスティックを用いてミサイルを操縦し、無線通信で指令信号を送信する必要があります。この際、目標を完全に捕捉し続ける必要はなく、照準装置の単眼鏡の視野内に目標とミサイルの両方を捉えていれば誘導が可能でした。

同時期に開発されていたアメリカのレッドアイやソ連のグレイルといった携SAMは赤外線誘導方式を採用していましたが、ブローパイプのCLOS方式は射手による操作が複雑になる一方で、目標の前方象限からでも交戦できるという利点がありました。ショーツ社自身も、これらの先行システムよりもブローパイプが有効であると考えていました。

照準装置は、右側にピストルグリップが付いた自己完結型のユニットで、無線送信機、ミサイルの初期自動追尾を行う自動収集装置、目標を捉えるための単眼照準器、そしてオプションとしてIFFインテロゲーター・システムが含まれています。単眼照準器は5倍の倍率を持ち、目標までの射程を推定する機能や、横風による影響を考慮する機能も備えていました。

弾頭部

ブローパイプには、成形炸薬弾頭または爆風破片効果弾頭が搭載可能で、それぞれの重さは約1.81kg（4ポンド）でした。信管は着発信管と近接信管の両方を備えています。ショーツ社は、この弾頭が航空機だけでなく対地目標に対しても有効であると考えていました。

また、何らかの理由で指令信号が途絶した場合、ミサイルは5秒後に自動的に自爆する安全機能が組み込まれていました。

推進装置

推進には、ロイヤル・オードナンスおよびインペリアル・メタル・インダストリーズが製造した2段式の固体燃料ロケットモーターが使用されました。

第一段のブースターは、燃焼時間がわずか0.2秒と短く設定されており、これは発射時に射手がロケットの爆炎にさらされるのを防ぐためでした。また、ブースターには特定の角度で配置された小孔があり、燃焼ガスをそこから噴出させることでミサイル弾体にロール（回転）を与えて安定性を高める設計になっていました。第二段のサスティナーは「クレーク」と呼ばれ、推進剤にはダブルベース火薬が用いられました。サスティナーの排気は、燃焼を終えたブースターの排気口を通して噴出する構造となっていました。

配備と運用史

ブローパイプは、1975年にイギリス陸軍で運用が開始された後、多くの国に輸出されました。

実戦における最も有名な使用例は、1982年のフォークランド紛争です。この紛争では、イギリス軍とアルゼンチン軍の双方がブローパイプを使用し、記録されている戦果としては、イギリスのハリアーGR.3攻撃機1機を撃墜した事例があります。

1983年には、ブローパイプの発展型であるジャベリンの開発が発表されました。イギリスでは、1985年にブローパイプの運用を終了し、1993年には生産も終了しています。最終的な合計生産数は21,000発でした。

派生型として、潜水艦に搭載するためにブローパイプの6連装発射機を昇降式マストに格納したSLAM（Submarine-Launched Airflight Missile）が開発されました。これはイギリス海軍の他、イスラエル海軍や南米のある国が導入したとされていますが、導入後短期間で運用が終了したと言われています。

主な採用国

ブローパイプを採用した国・組織には以下のようなものがあります（一部抜粋）。

アフガニスタン（ムジャーヒディーン）
アルゼンチン（陸軍、特殊部隊、海兵隊）
エクアドル（陸軍）
オマーン（陸軍）
カタール（陸軍）
カナダ（カナダ軍）
ニカラグア（コントラ）
タイ（空軍）
ナイジェリア（陸軍）
ポルトガル（陸軍）
* マラウイ（陸軍）

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