プラエフェクトゥス・プラエトリオ

プラエフェクトゥス・プラエトリオ（古典ラテン語：praefectus praetorio）は、ローマ帝国における重要な公職の一つであり、その起源は近衛隊（プラエトリアニ）を統率する官職でした。この役職は、帝国の歴史を通じてその役割と性質を大きく変えながらも、長く存続しました。

帝政前期：近衛隊長官としての役割

帝政初期において、プラエフェクトゥス・プラエトリオは「近衛隊長官」「近衛軍団長官」「近衛総監」「護衛隊長」「親衛隊長」などと訳され、皇帝直属の親衛隊であるプラエトリアニを指揮する役職でした。この役職には、通常1人から3人が任命され、主にエクィテス（騎士階級）出身者が選ばれました。この時期において、エクィテスが就任できる公職としては最高位の一つであり、その権威と影響力は非常に大きなものでした。アレクサンデル・セウェルスの治世になると、元老院議員もこの役職に就任するようになり、エクィテス出身者が就任する際には自動的に元老院の議席が与えられるという特典も付与されました。

皇帝たちは常にプラエトリアニを自らの統制下に置こうと努めましたが、プラエトリアニは帝政初期から独自の勢力を持ち、政治に大きな影響力を行使する存在でした。例えば、カリグラ帝の暗殺とクラウディウス帝の即位には、プラエトリアニが深く関与しています。軍人皇帝時代には、プラエフェクトゥス・プラエトリオの地位から皇帝に即位したフィリップス・アラブスのような人物も現れ、その影響力の大きさを物語っています。

帝政後期：行政長官への変質

ディオクレティアヌス帝の治世になると、プラエトリアニの権限は大幅に削減され、コンスタンティヌス1世の時代にはついに解散させられました。これに伴い、プラエフェクトゥス・プラエトリオの職務からも軍事的要素が取り除かれ、「道長官」と訳されるように、行政区画の長としての役割が強まります。コンスタンティヌス帝の死後、プラエフェクトゥス・プラエトリオは、ガリア、イタリア、イリュリクム、オリエンスの4つの道（行政区）の長官として、皇帝にとって信頼できる高官（文官）として重要な役割を担うようになりました。

プラエフェクトゥス・プラエトリオは、その歴史の中で、軍事的な指揮官から行政官へと変貌を遂げました。初期には皇帝の護衛と政治的影響力を持つ存在でしたが、後期には帝国の行政を支える重要な官職として、その役割を果たしました。この変遷は、ローマ帝国の政治体制の変化を象徴するものであり、プラエフェクトゥス・プラエトリオの歴史を辿ることは、ローマ帝国の歴史を理解する上で重要な要素となります。

東ローマ帝国では、ヘラクレイオス帝の治世まで行政長官として存続し、その制度が長く維持されたことがわかります。

関連事項

プラエトリアニ: ローマ皇帝の親衛隊であり、プラエフェクトゥス・プラエトリオが指揮した軍事組織。
プラエフェクトゥス: ローマ帝国の官職の一つで、様々な役職に就いた。プラエフェクトゥス・プラエトリオはその中でも特に重要な役職の一つ。
道 (ローマ帝国): ローマ帝国の行政区画の一つ。
古代ローマの公職: 古代ローマには様々な公職が存在し、それぞれが異なる役割と権限を持っていた。

もう一度検索