プリング・オフ

プリング・オフ (Pull-off)

「プリング・オフ」、または略して「プリング」と呼ばれるこの演奏技法は、主にフレットを備えた弦楽器、特にギターなどで広く用いられる基本的ながらも重要なテクニックです。この奏法は、通常ピッキングによって発音されるべき音を、指板上の指の操作のみで鳴らすことを可能にし、特に音程を下げる方向へのレガート（音と音を滑らかにつなげる）演奏を実現するために不可欠です。

プリング・オフの基本的な原理は、弦を特定のフレットで押弦している指、または既に押弦されている状態から指を離す際に、その指で弦を「引っ掻く」ように動かすことにあります。具体的には、弦を指板面からわずかに離れる方向、または演奏者から見て下向きに払うような動作によって、弦に振動を与え、意図した音を発音させます。この「引っ掻く」動きによって、まるで弦を摘まんで弾くかのような瞬間的な力が加わり、音が鳴るのです。この発音方法は、ピッキングによるものとは異なり、より柔らかく、それでいてしっかりとしたアタック感を持った音を生み出すことができます。

この技法が最も効果的に用いられるのは、連続する音符の音程が下降する場合です。例えば、ギターの同じ弦上で、人差し指で低いフレット（例えば第5フレット）を、別の指（例えば薬指）でそれより高いフレット（例えば第7フレット）を同時に押さえている状況を考えます。まず高い方の第7フレットの音を発音させた後、その第7フレットを押さえている薬指を弦から離す際に、先述の「引っ掻く」動作を加えます。すると、弦は離れた薬指によって再び振動を与えられ、次に押弦されている第5フレットの音が鳴り続けます。このようにして、第7フレットの音から第5フレットの音へと、ピッキングなしに自然で滑らかな音程の下降が実現され、美しいレガートフレーズが生まれるのです。この例では薬指から人差し指へのプリング・オフを示しましたが、複数の指を使って、さらに複雑なプリング・オフの連続を行うことも可能です。

プリング・オフは、しばしば「ハンマリング・オン」という別のレガート技法と対にして語られます。ハンマリング・オンは、指板に指を「叩きつける」ことで音程を上げる効果を生み出すのに対し、プリング・オフはその逆方向に音程を下げます。これら二つの技法は、弦楽器におけるレガート演奏の基本を成すものであり、両方を自在に使いこなすことで、フレーズの表現力は格段に向上します。

さらに、ハンマリング・オンとプリング・オフを同一弦上で非常に速いスピードで交互に繰り返すことで生まれるのが「トリル」と呼ばれる装飾的な効果です。これは、二つの音の間を行き来する細かく震えるような響きをもたらし、楽曲に華やかさや緊張感を与えます。

そして、これらのレガート技法を、通常ピッキングを行う側の手（多くの場合右手）も指板上で用いて行うのが「タッピング奏法」です。タッピング奏法では、右手の指を使って弦を指板に叩きつけたり（ハンマリング・オン）、あるいは引っ掻いたり（プリング・オフ）することで音を発音させます。プリング・オフは、タッピング奏法の中でも特に音程を下げる部分や、ピッキングとタッピングを組み合わせたフレーズにおいて重要な役割を果たします。タッピング奏法は、通常の左手のみの演奏では実現不可能な、非常に速く広い音域を使ったフレーズを可能にし、現代の弦楽器演奏において欠かせない高度なテクニックとなっています。

プリング・オフは、単に音を出すだけでなく、音のつながりを滑らかにし、演奏にダイナミクスやニュアンスを加える上で非常に有効です。速弾きや複雑なメロディーラインを、より少ないピッキングでスムーズに演奏することを可能にするため、演奏技術の向上はもちろん、音楽的な表現力を深める上でも、その習得は大変有益であると言えるでしょう。この技法をマスターすることで、演奏者はより流麗で豊かな音楽表現を追求することができるようになります。

関連する技法としては、既に述べた「ハンマリング・オン」や「タッピング奏法」が挙げられます。また、ピックを使わずに指で弦を弾く「ピッツィカート」も、広義には指による発音という点で関連性を見出すことができます。

もう一度検索