プルトニウム239

プルトニウム239について

プルトニウム239は、プルトニウムの同位体の一つであり、核分裂性を持つ重要な物質です。ウラン235と同様に核兵器や原子力発電の燃料として利用されてきました。特に、熱中性子炉の燃料として利用できる3つの同位体（ウラン235、ウラン233と並ぶ）の一つです。半減期は約24,110年と非常に長いです。

核物理

プルトニウム239は、高純度な状態では兵器級高濃縮ウラン235よりも安価に大量生産できるため、核兵器や原子力発電所で利用されています。核分裂反応では、ウラン235原子から放出された中性子がウラン238に捕獲されることでプルトニウム239が生成されます。このプルトニウム239もウラン235と同様に核分裂を起こします。

プルトニウム239は、すべての核燃料の中で最小の臨界量を持ちます。稠密な球状にした場合の臨界量は約11kg、直径は約10.2cmです。点火機構や中性子反射体、爆縮構造を適切に設計することで、より少ない量で臨界を達成できます。このような最適化には、高度な技術力を持つ組織が不可欠です。

プルトニウム239原子1個が核分裂すると、約207.1MeVのエネルギーが放出されます。これは、1molあたり約19.98TJ、1kgあたり約83.61TJに相当し、エネルギー密度が非常に高いことがわかります。

製造

プルトニウム239は、原子炉内でウラン238が中性子を吸収し、核変換を起こすことによって生成されます。具体的には、ウラン238が中性子を捕獲してウラン239となり、その後2回のβ崩壊を経てネプツニウム239となり、最終的にプルトニウム239へと変化します。


\mathrm{^{238}_{92}U + _{0}^{1}n \longrightarrow \ _{92}^{239}U \xrightarrow[{23.5\ \text{min}}]{\beta^{-}} \ _{93}^{239}Np \xrightarrow[{2.3565\ \text{d}}]{\beta^{-}} \ _{94}^{239}Pu}


原子炉内では、周囲に大量のウラン238や核分裂生成物が存在するため、プルトニウム239が核分裂を起こす確率は低くなります。しかし、中性子照射時間が短い場合には、再処理を行うことで高純度のプルトニウム239を得ることができます。

プルトニウム239は、ウラン235よりも核分裂を起こしやすく、核分裂時に放出する中性子も多いため、臨界量が小さくなります。純粋なプルトニウム239は自発核分裂の確率が低いため、連鎖反応が始まる前に臨界量以上の質量を組み立てることができます。

しかし、原子炉で生成されるプルトニウムには、プルトニウム240も含まれています。プルトニウム240は高い確率で自発核分裂を起こすため、核兵器としては好ましくない同位体です。プルトニウム240を多く含むプルトニウムは、取り扱いが困難で、核兵器が不完全核爆発を起こす原因にもなります。このため、プルトニウムを用いた核兵器は爆縮レンズ型に限られます。

プルトニウム239とプルトニウム240は化学的に分離できず、質量数の差も小さいため物理的な分離も困難です。兵器級プルトニウムはプルトニウム240の含有量が7%以下のものと定義されており、これを得るためには、ウラン238への短時間の中性子照射が必要です。

プルトニウムは、プルトニウム240の含有率によって以下のように分類されます。

スーパーグレード: 2-3%
兵器級: 7%未満
核燃料級: 7-18%
原子炉級: 18%以上

核兵器に使用するプルトニウムを生産する原子炉では、照射済みのウラン238を頻繁に交換することで、プルトニウム240の生成を抑制しています。

利用

原子力発電

原子力発電では、原子炉内でプルトニウム239が生成・消費されます。発電用原子炉では、高燃焼度で運用されるため、大量のプルトニウムが生成されます。プルトニウム239は燃料集合体の寿命に合わせて使用済み核燃料として取り除かれ、一般的な使用済み核燃料には約0.8%のプルトニウム239が含まれます。原子炉内では、プルトニウム239も核分裂を起こし、エネルギーを生成します。発電用原子炉では、プルトニウム239の核分裂によるエネルギーは、全エネルギーの約1/3を占めています。

MOX燃料（混合酸化物燃料）では、酸化ウランと酸化プルトニウムを混合することで、濃縮ウランの割合を減らしたり、濃縮自体を不要にすることができます。

核兵器

プルトニウム239は、臨界量が少なく、精製が容易であるため、核兵器に広く利用されています。ウラン235の濃縮に比べると、プルトニウム239の抽出は時間とコストを抑えられます。特に90%以上のプルトニウム239を含む兵器級プルトニウムは、他の核分裂物質よりも優位性を持っています。ただし、プルトニウム240の存在が核兵器の設計を複雑にしています。

スーパーグレード・プルトニウム

スーパーグレード・プルトニウムは、極めて高純度なプルトニウム239（95%以上）であり、プルトニウム240などの同位体がごくわずかしか含まれていません。これは、低い燃焼度で燃料から生成され、中性子照射時間を短くすることで実現できます。しかし、生成されるプルトニウム239の量が少ないため、製造コストが高くなります。スーパーグレード・プルトニウムは、主にアメリカ海軍が核兵器に使用しており、乗組員の被曝低減に貢献しています。

人体への危険性

プルトニウム239は、アルファ粒子を放出してウラン235に崩壊します。外部被曝のリスクは低いものの、粉塵として摂取または吸入すると、高い発がん性を示します。また、重金属中毒の危険性も指摘されています。1ポンド（約454g）のプルトニウムが粉塵となると、約2万人に癌を生じさせる可能性があると推計されています。

参考文献

Emsley, John (2001). “Plutonium”. Nature's Building Blocks: An A–Z Guide to the Elements. Oxford (UK): Oxford University Press. ISBN 0-19-850340-7

外部リンク

NLM Hazardous Substances Databank – Plutonium, Radioactive
Table of nuclides with Pu-239 data at Kaye and Laby Online
Half-life of Plutnium-239

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