プレセペ星団

プレセペ星団（M44）：かに座に輝く星々の集団

プレセペ星団は、かに座の中心部に位置する、肉眼でも観測可能な散開星団です。その美しい輝きは、古くから多くの人々を魅了してきました。星団は、γ星、η星、θ星、δ星の四つの星で形作られる四辺形の中心に位置し、577個もの恒星が、いっかくじゅう座の方向に約41km/秒の速度で移動しています。

名称の由来

プレセペ（Praesepe）という名前は、ラテン語で「飼い葉桶」を意味します。これは、γ星とδ星が、まるで飼い葉桶の餌を食べる2頭のロバのように見えたことに由来します。γ星は「アセルス・ボレアリス（北のロバ）」、δ星は「アセルス・アウストラリス（南のロバ）」という固有名を持っています。

英語では「ビーハイブ（Beehive）」、つまり「蜂の巣」と呼ばれています。これは、星団が多くの星々で密集している様子を表しています。また、中国では「積尸気（ししき）」または「積屍気（せきしき）」と呼ばれ、亡くなった人の魂が集まる場所、あるいは魂が天に昇っていく際に通過する場所だと考えられていました。

見え方と観測

月のない晴れた夜空では、肉眼でもぼんやりと星の集まりとして見ることができます。目の良い人であれば、いくつかの星を個別に認識することも可能です。オペラグラスを使用すると、星団の姿がよりはっきりと見え始め、双眼鏡を使うことで星団全体の形を捉えることができます。大口径の望遠鏡を使えば、数百個もの恒星を観測でき、赤い星やオレンジ色の明るい星を確認することができます。

プレセペ星団には、赤色巨星や白色矮星も存在することが知られており、これはプレアデス星団（M45）とは異なる特徴です。

歴史的な観測

プレセペ星団は、紀元前から知られており、古代ギリシアのアラトスは、この星団がかすんで見えると雨の前兆であると記しました。紀元前130年頃には、天文学者のヒッパルコスが星表に「小さな雲」「雲のような星」として記録しました。また、トレミーは「（蟹の）胸にある雲のようなもの」として言及しています。

この星団が恒星の集団であることを最初に発見したのはガリレオ・ガリレイです。彼は「プレセペと呼ばれる星雲は、ひとつの星ではなく、40以上の小さな星の集まり」と記述しました。

1989年に打ち上げられた人工衛星ヒッパルコスによって、プレセペ星団の星の視差が精密に観測され、その結果、星団までの距離は約577光年、年齢は約7億3000万年であることが明らかになりました。プレセペ星団の年齢や固有運動は、おうし座の散開星団であるヒアデス星団と非常に似ているため、この二つの星団は同じ星間雲から同時期に生まれたのではないかという説があります。

太陽系外惑星の発見

2012年、アメリカのジョージア州立大学の研究チームが、プレセペ星団内の53個の恒星を観測したところ、2つの恒星に視線速度のドップラー偏移が確認されました。このドップラー偏移は、惑星の存在を示唆しています。

視線速度のドップラー偏移が確認されたのは、一つは太陽よりわずかに大きいF型主系列星のPr 0201と、もう一つは太陽よりわずかに小さいG型主系列星のPr 0211です。Pr 0201には、木星の半分ほどの質量で公転周期が4日半の惑星が、Pr 0211には、木星の約2倍の質量で公転周期が2日の惑星が存在している可能性が示唆されました。これらの惑星は、ホット・ジュピターと呼ばれるタイプの惑星です。

2016年には、Pr 0211に木星の8倍近くで5300日周期の惑星質量天体が存在する可能性も示唆されています。これまで、星団を構成する恒星の系外惑星探査はほとんど行われていませんでしたが、プレセペ星団のような星団は銀河系にありふれているため、今後の観測によって、系外惑星の発見がさらに進むことが期待されています。

プレセペ星団は、その美しさだけでなく、宇宙の謎を解き明かすための重要な手がかりとなる可能性を秘めている、興味深い天体です。

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