プログレスM-40

概要

プログレスM-40（ロシア語: Прогресс М-40）は、ロシア連邦が開発した無人宇宙補給船「プログレス」シリーズの一機（シリアル番号239）です。1998年に打ち上げられ、当時運用されていた宇宙ステーション「ミール」への物資輸送任務を遂行しました。この機体には、補給任務完了後に地表を太陽光で照らす「ズナーミャ2.5」という先進的な実験装置が搭載されていましたが、機材の不具合により、計画されていた実験は実行されずに運用を終了しました。

運用

プログレスM-40は、1998年 10月25日午前7時14分57秒（モスクワ時間、UTC午前4時14分57秒）に、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地からソユーズロケットによって打ち上げられ、無事軌道に乗せられました。

打ち上げから約3日後の同年10月28日午前2時3分24秒（モスクワ時間、UTC10月27日午後11時3分24秒）には、プログレスM-40はミール宇宙ステーションのクバント-1モジュールにあるドッキングポートへの接近を開始しました。このランデブーおよびドッキング操作は、自動操縦システムによって滞りなく行われ、ミールとの結合に成功しました。

ミールへの補給任務とステーションとの共同飛行期間を終えた後、プログレスM-40は1999年 2月4日午後0時59分32秒（モスクワ時間、UTC午前9時59分32秒）にミール宇宙ステーションから分離され、単独での自由飛行へと移行しました。ミールからの分離に先立ち、ステーションに滞在していた宇宙飛行士によって、後述するズナーミャ2.5実験で使用される反射鏡装置がプログレス補給船のドッキング部に設置されました。

搭載貨物

プログレスM-40は、ミール宇宙ステーションで活動するクルーのために、多岐にわたる物資を搭載していました。積荷の総重量は2551.9kgに達し、これには宇宙飛行士の生命維持に必要な食料、水、実験機器、さらには軌道制御や生命維持システムに必要な燃料や酸素などの気体が含まれていました。また、クルーの安全を守るための保護具や、地上の関係者からの個人的な配達品なども運ばれました。

特に注目される積荷として、初めてフランスの科学実験機器が輸送された点が挙げられます。「フラッグマン実験」と呼ばれるこの実験は、フランス人宇宙飛行士であるジャン＝ピエール・エニュレ氏がミールに約4ヶ月間滞在する間に行うために特別に設計された操作機材でした。プログレスM-40は、このような国際協力による宇宙科学研究を支える重要な役割も担いました。

ズナーミャ2.5計画と実験の失敗

ズナーミャ2.5（Знамя-2,5）計画は、プログレスM-40を用いた革新的な科学実験でした。この計画の主目的は、軌道上から直径25メートルにも及ぶ巨大な薄膜の反射鏡を展開し、そこに太陽光を反射させることで、夜間の地表のある特定の場所を人工的に明るく照らし出すというものでした。この実験は、将来的な宇宙からの地表照明技術の可能性を探るものであり、成功すれば農業への応用や災害時の支援など、様々なメリットが期待されていました。

ズナーミャ2.5の反射鏡とその展開装置は、ミールからの分離に先立って、プログレスM-40のドッキング部に設置されました。実験の開始は、機体がミールから分離された約1時間半後に予定されていました。計画では、反射鏡を展開したプログレスM-40が約24時間にわたって地球を周回し、その間ミールもプログレスと並行して飛行することで、継続的に地表を照射する予定でした。もし実験が成功していれば、反射された太陽光は地上からも肉眼で確認できるほど明るくなるとされており、専門家だけでなく一般の人々もこの光景を観測できる可能性が指摘されていました。

しかし、この計画は残念ながら失敗に終わりました。原因は、プログレス補給船の自動運行プログラムに予期せぬエラーが発生したことにあります。具体的には、反射鏡を展開する際に、機体に装備されている「クルス」と呼ばれる別の通信アンテナを格納するべき指令が出されませんでした。その結果、展開途中の巨大な反射鏡膜が、開いた状態だったクルスアンテナに引っかかってしまい、完全に展開することができなかったのです。

反射鏡がアンテナに挟まった状態は、プログレス補給船がミッション終了後に軌道を離れて大気圏に再突入する際の通常の手順に支障をきたす可能性が懸念されました。この技術的な問題により、ズナーミャ2.5計画の主要目的である地表照射は不可能となり、実験は中止となりました。プログレスM-40は、この実験の失敗という結果を伴ったまま、その運用を終えました。

プログレスM-40