プログレスMS-20

プログレスMS-20は、ロシアのロスコスモスによって開発・運用された、国際宇宙ステーション（ISS）への無人での物資輸送を目的とした宇宙船です。ロシア製造番号は450と付与され、NASAからはプログレス81Pとも呼ばれていました。これは、長きにわたるプログレス計画における173機目の飛行にあたります。

プログレスMSシリーズの特徴

プログレスMSシリーズは、従来のプログレスM型をベースに、航法システムを中心に大幅な強化が図られた改良型です。2015年12月21日に初めて打ち上げられたこの改良型には、以下のような機能向上が盛り込まれています。

人工衛星展開機能: 外部に新たなコンパートメントが設けられ、それぞれ最大4基の発射コンテナーを搭載し、小型人工衛星（キューブサットなど）をISSから軌道投入することが可能になりました。この機能はプログレスMS-03で初めて実証されました。
冗長性の向上: ドッキング機構や密閉機構を駆動する電気モーターに予備システムが追加され、システムの信頼性と安全性が高められました。
微小隕石への耐久性向上: 貨物コンパートメントにパネルを追加することで、宇宙空間を漂う微小なデブリや隕石からの損傷に対する防御能力が強化されています。
通信能力の拡大: ロシアのルーチ中継衛星との連携機能により、地上局のカバー範囲外にある場合でも、宇宙船のテレメトリーデータの取得やコマンド送信が可能となりました。
自律航法システムの導入: GNSS（全球測位衛星システム）を活用した自律航法機能により、地上局からの指示なしに宇宙船自身の位置や軌道要素を正確に決定できるようになりました。
リアルタイム相対ナヴィゲーション: ISSとの直接無線データ交換を通じて、ドッキングなどの接近フェーズにおける相対位置情報をリアルタイムで取得し、より精密な誘導が可能になりました。
ドッキング用視覚システムの改良: 新しいデジタル無線システムの導入により、ドッキング操作時に必要となるTV映像の解像度と信頼性が向上しました。
システム更新: ウクライナ製のChezara Kvant-V無線システムや関連アンテナフィーダーシステムは、ロシア製の統合コマンドテレメトリーシステム（UCTS）に置き換えられました。また、自動ドッキングシステムであるクルスAも、より近代的なデジタルシステムのクルスNAへと更新されています。

プログレスMS-20の飛行

プログレスMS-20のISSへの飛行計画は、2021年2月3日にロスコスモスの有人宇宙飛行試験に関する国家委員会によって承認されました。

打ち上げは、2022年6月3日にカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地の31番射点から実施されました。ソユーズ2.1aロケットに搭載されたMS-20は、迅速なランデブーを目指す高速軌道に乗せられました。その後、宇宙船は無人でISSに接近し、ズヴェズダ・モジュールの後方側ポートに自動でドッキングしました。ISSには、当時の第67次長期滞在クルーとそれに続く第68次長期滞在クルーが滞在しており、プログレスMS-20は合計248日間にわたりISSとのドッキング状態を維持しました。

搭載貨物

プログレスMS-20は、ISSのクルーが活動を続け、科学実験を行うために必要な様々な物資を運びました。総貨物量は約2,500キログラムに及びました。その内訳は以下の通りです。

非与圧貨物（補修部品、機材、日用品など）：約1,458 kg
推進剤：約599 kg
呼吸用酸素：約40 kg
飲料水および生活用水：約420 kg

これらの基本的な物資に加え、プログレスMS-20はISSでの新たな技術実証や実験を支援する特別な貨物も運びました。注目すべき貨物としては、宇宙空間での製造能力を試すための3Dプリンターや、ロシアのユーリ・ガガーリン記念南西国立大学（SWSU）が開発した6機の実験用キューブサット（SWSU No.5からNo.10）がありました。これらのキューブサットは、後日、ISSに滞在していたロシア人宇宙飛行士オレッグ・アルテミエフ氏が船外活動（EVA 3）中に手作業でISSから宇宙空間に放出されました。

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