プロトエーノール

プロトエーノール（古希: Προθοήνωρ, Prothoēnōr）は、古代ギリシャの神話に語られる英雄的な人物の一人です。

その出自については複数の伝承があり、アレーイリュコスとテオブーレーの子であったとする説と、あるいはイトーノスの子アルキリュコスの子であったとする説が存在します。また、アルケシラーオスを兄弟に持つとも伝えられています。名前については、長母音を省略してプロトエノルと表記されることもあります。

プロトエーノールは、ホメロスの叙事詩『イリアス』などで描かれる名高いトロイア戦争において、アカイア勢（ギリシャ軍）の一員として参戦しました。彼は特に、ボイオーティア地方から派遣された部隊を率いる重要な武将の一人としてその名を挙げられています。ボイオーティア勢は、ペーネレオース、レーイトス、プロトエーノールの兄弟とされるアルケシラーオス、そしてクロニオスといった複数の指揮官によって共同で率いられており、プロトエーノールもその主要な指導者の一角を占めていました。伝承によれば、彼はテスピアイから加わった援軍、具体的には8隻の船を指揮していたとも伝えられています。

彼の戦場での活躍は、その最期を描いた箇所で示唆されます。プロトエーノールは、激しい戦闘の最中に命を落としました。彼の死の状況については、主に二つの異なる伝承が存在します。

一つ目の伝承では、小アイアースがトロイア側の人物サトニオスを討ち取った直後にその出来事が起こりました。サトニオスの友人であったプーリュダマース（ポリュダマースとも呼ばれる）が、友を助けようと駆け寄り、復讐に燃えてギリシャ勢に襲いかかります。このプーリュダマースによって、プロトエーノールは討たれてしまったと語られています。

もう一つの伝承では、プロトエーノールを討ち取ったのは、トロイア軍随一の勇士であるヘクトールであるとされています。ヘクトールは多くのギリシャの英雄たちを討ち取ったことで知られており、プロトエーノールもまた彼の犠牲者の一人であった可能性が示唆されています。どちらの伝承が正確であるかは定かではありませんが、いずれにせよ彼はトロイア戦争の苛烈な戦いの中で命を落とした重要な人物であったことがわかります。

プロトエーノールがプーリュダマースに討たれたという伝承においては、その死がさらに別の出来事を引き起こします。彼の友人であった大アイアースは、プロトエーノールの仇を討つべく、プーリュダマース目がけて渾身の力で槍を投げつけました。しかし、この槍はわずかに外れてプーリュダマースには当たらず、代わりに近くに立っていたトロイア側の戦士、アンテーノールの息子アルケロコスに命中し、彼を殺してしまいます。このように、プロトエーノールの死は単なる一人の戦士の最期にとどまらず、その後の戦場における出来事の連鎖の発端ともなったのです。

プロトエーノールは、出自には諸説あるものの、トロイア戦争におけるギリシャ軍、特にボイオーティア勢を率いた重要な指揮官として記憶されています。その戦死は、プーリュダマースあるいはヘクトールといった強大な敵の手によるものと伝えられており、彼は戦場で命を散らした数多の英雄たちの一人として、古代の神話の中でその名を留めています。

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