プロメテウス (宇宙船)

プロメテウス（Prometheus）

プロメテウスは、アメリカ合衆国の航空宇宙企業であるオービタル・サイエンシズ社が、2010年後半に構想を明らかにした有人宇宙船計画です。このプロジェクトは、アメリカ航空宇宙局（NASA）が民間企業による宇宙輸送能力の開発を支援するために立ち上げた商業乗員開発プログラム（Commercial Crew Development、略称CCDev）の枠組みの中で提案されました。

計画されたプロメテウス宇宙船の最も特徴的な点は、その運用形式にありました。これは、ロケットのように垂直に離陸し、大気圏再突入を経て航空機のように滑走路へ水平に着陸するという、「垂直離陸水平着陸（VTVL: Vertical Take-off, Horizontal Landing）」方式を目指したものでした。

設計と技術的特徴

プロメテウスの設計は、NASAが過去に研究していた、揚力を利用して帰還するリフティングボディ形状の宇宙船である「HL-20」の概念を基盤としています。オービタル・サイエンシズ社自身も、以前にNASAの支援を受けて行われたオービタル・スペース・プレーン計画の一環としてHL-20の改良研究に携わった経験があり、これらの知見やNASAが進めたHL-20への技術改良がプロメテウスの設計に取り入れられました。

ただし、プロメテウスの設計は、純粋なリフティングボディであったHL-20とは異なり、「ブレンデッド・リフティング・ボディ（Blended Lifting Body、略称BLB）」と呼ばれる形状を採用しています。このBLB設計は、機体の胴体と翼の境界が滑らかにつながっており、体積効率の良さと優れた空気力学的な性能を両立させることを目指したものです。

能力と目的

当初の構想において、プロメテウスは国際宇宙ステーション（ISS）や将来的に建設される可能性のある民間の宇宙ステーションへ、最大で4名の宇宙飛行士を輸送する能力を持つとされていました。さらに、設計に改良を加えることで、将来的には輸送可能な乗員数を6名まで増やすことも計画されていました。

打ち上げに使用するロケットとしては、確立された能力を持つアトラスVロケットが基準として想定されていましたが、設計段階では他の既存ロケットや開発中のロケットとの互換性も考慮されていました。

計画の終結

NASAのCCDevプログラムは、提案された複数の商業宇宙船開発計画の中から優れたものを選定し、資金援助を通じて実現を後押しする競争的な枠組みでした。プロメテウスは、このプログラムの第2段階における資金提供先の選考に応募しましたが、残念ながらNASAからの支援対象としては選ばれませんでした。

この選考結果を受け、オービタル・サイエンシズ社は2011年4月に、自社の商業有人宇宙船開発計画を段階的に縮小していく方針を公にしました。これにより、プロメテウス計画は事実上、コンセプト段階に留まり、実現に至ることはありませんでした。

もし計画が進んでいれば、プロメテウスの開発および関連するアトラスVロケットの改良には、およそ35億ドルから40億ドルの費用が見積もられていました。

関連プロジェクト

プロメテウスと同様に、NASAのHL-20設計をその技術的ルーツの一つとする有人宇宙船開発プロジェクトとして、シエラ・ネヴァダ・コーポレーションが推進した「ドリームチェイサー」計画が挙げられます。こちらもリフティングボディ形状を採用していますが、異なるアプローチで開発が進められました。

プロメテウス計画は、民間企業による宇宙輸送システムの可能性を広げる試みの一つでしたが、実現には至りませんでした。しかし、その独特な垂直離陸・水平着陸の構想やBLB設計は、将来の宇宙機開発における一つの事例として位置づけることができます。

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