プロメテウス (木)

プロメテウス（木）

『プロメテウス』という名で知られるWPN-114は、記録上、非クローン性の単一生物としては最も長寿だったと考えられているブリスルコーンパイン（学名：Pinus longaeva）の個体です。推定樹齢は少なくとも4862年、あるいは5000年を超えていた可能性も指摘されていますが、1964年に研究目的で伐採されました。この行為は、後に大きな議論を呼ぶことになります。

プロメテウスは、米国ネバダ州東部、グレートベースン国立公園内のホイーラー・ピーク、その森林限界に近いモレーン上のブリスルコーンパインの森に生育していました。ホイーラー・ピークはスネーク・レンジ、そしてネバダ州全体の最高峰です。この山のブリスルコーンパインの群落は、比較的アクセスしやすいエリアと、プロメテウスが生育していたようなアクセスが困難なエリアに分けられます。1958年と1961年には、この森の古木に感銘を受けた博物学者たちが、特に印象的な個体に番号を付け、プロメテウスもその一つとして識別されました。

樹齢の推定は、当初、伐採を行ったノースカロライナ大学の大学院生ドナルド・ラスク・カリー氏によって少なくとも4844年と見積もられました。その後、アリゾナ大学のドナルド・グレイビル氏が4862年と再推定しましたが、これは木の根元から約2.5メートル上の部分の年輪を数えたものです。その高さより下は中心部の年輪が失われていたためです。この4862年という数字に、幹がその高さまで成長するのに要した期間や、生育が困難な環境下で年輪が形成されなかった年数などを加味すると、伐採時の樹齢は5000年を超えていた可能性が高いとされています。これが事実であれば、プロメテウスは、当時知られていたカリフォルニア州のメトシェラというブリスルコーンパインよりも数百年長寿であり、ユニタリー（非クローン）生物としては記録上最も高齢な個体だったことになります。

ただし、「最も長寿な生物」とするかは定義によります。クローンによって増殖する生物を含めるなら、クレオソートブッシュやアメリカヤマナラシのような種には、はるかに長い期間生き続けるコロニーが存在します。例えば、ユタ州のパンドと呼ばれるアメリカヤマナラシのクローン群落は、8万年前から存続している可能性が示されています。しかし、クローン生物の場合、各々のクローン茎自体に特定の「老化」の概念は当てはまりにくいと考えられています。この点において、プロメテウスは単一の個体として、中心部から計測されただけでも4862年以上の年輪を持つ、非クローン生物としては比類なき長寿を誇る存在でした。

プロメテウスの伐採は1964年8月に行われました。当時の年輪年代学研究者たちは、過去の気候変動の評価や考古遺跡の年代特定など、様々な研究に応用可能な古木の年輪分析に力を入れていました。ブリスルコーンパインが既知の樹種の中で最も長寿であることがエドワード・シュルマン氏によって発見され、メトシェラのような古樹を凌ぐ個体を探す動きが活発化していました。

ドナルド・ラスク・カリー氏は、小氷期の気候変動を研究するため、スネーク・レンジ、特にホイーラー・ピークのブリスルコーンパインに着目していました。彼はいくつかの木からコア・サンプルを採取し、3000年を超える樹齢を持つ個体を発見しましたが、プロメテウス（WPN-114）からは他の木のようにコア・サンプルを採取することができませんでした。このコア・サンプル採取の困難さや、なぜ最終的に木を伐採して輪切りにしたのかについては、関係者間で見解の相違があり、複数の説が提唱されています。唯一のボーリング機が破損した、あるいは二つとも壊れた、コア・サンプルだけでは不十分だったなど、理由は判然としていません。また、プロメテウスが周囲の古木と比べてどれほど際立って見えたか、伐採の決定に関わったカリー氏や森林局職員と、他の関係者の間でも認識が異なっています。

加えて、カリー氏の研究対象が主に600年前から始まったとされる小氷期であったことを考えると、それよりもはるかに古いプロメテウスを伐採する必要性があったのかという疑問も呈されました。カリー氏自身は、当時の論文で小氷期をより長い期間と捉えていた可能性や、カリフォルニア以外にも長寿のブリスルコーンパインが存在するかを確認したかったことを伐採理由として挙げています。

いずれにせよ、プロメテウスは伐採され、輪切りにされた断片は研究のために持ち出されました。現在、これらの断片の一部は、グレートベースン国立公園ビジター・センターやイーリー・コンベンション・センター、アリゾナ大学年輪研究所など、様々な施設で保管・展示されています。

このプロメテウスの伐採事件は、ブリスルコーンパイン、特にホイーラー・ピークの森の保護に対する意識を高める重要な契機となったと言われています。この地域は、事件の22年後にはグレートベースン国立公園として指定され、保護が進められることとなりました。

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