ヘキサクロロブタジエン

ヘキサクロロブタジエン：特性、用途、毒性

ヘキサクロロ[ブタジエン]は、室温で無色の液体として存在し、テルペンチンに似た臭気を有する有機化合物です。その主な用途は、他の塩素系化合物の溶媒としての利用ですが、近年では毒性への懸念から、使用が制限される傾向にあります。

合成法

ヘキサクロロブタジエンは、主に四塩化炭素やテトラクロロエチレンの製造過程における副産物として得られます。これらの化合物は、炭化水素を塩素ガスと反応させるクロリノリシスというプロセスによって合成されます。この反応は、高温高圧下で、炭化水素の塩素化と分解が連鎖的に起こる複雑な過程です。副産物として生成するヘキサクロロブタジエンは、四塩化炭素やテトラクロロエチレンの大量生産に伴い、工業的に十分な量が供給されています。また、ブタンやブタジエンを直接塩素化する合成法も存在します。

反応性

ヘキサクロロブタジエンの反応性は、反応温度や圧力に大きく依存します。塩素ガス存在下で適切な条件を制御することで、さらなる塩素化反応を起こし、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロエタン、オクタクロロブテン、デカクロロブタンといった化合物を生成できます。一般的に、塩素置換基の数が増加すると、毒性が増し、可燃性が低下する傾向があります。

用途

ヘキサクロロブタジエンの最も重要な用途は、溶媒としての利用です。「似たものは似たものを溶かす」という原則に則り、塩素系化合物を効率的に溶解します。特に、塩素ガスの溶解度が高く、他の塩素系溶媒である四塩化炭素よりも高い溶解度を示す場合もあります。この特性から、塩素化反応における溶媒として広く用いられてきました。例えば、トルエンの塩化鉄触媒による塩素化反応では、四塩化炭素に不溶性の塩化鉄がヘキサクロロブタジエン中に溶解するため、ヘキサクロロブタジエンが好んで使用されます。

また、ガス流からの塩素含有汚染物質の除去にも利用されます。例えば、塩化水素ガスの製造において、塩素や他の塩素系化合物がヘキサクロロブタジエンに良く溶解するため、スクラバーとして機能します。さらに、赤外線分光分析において、試料のC-H伸縮振動による干渉を防ぐためのmull剤（ペースト状試料基剤）としても使用されます。ただし、一部の有機金属化合物とは反応するため、試料との適合性を確認する必要があります。かつては工業用冷却システムの殺藻剤としても使用されていましたが、毒性の高さから、現在では推奨されていません。

毒性

ヘキサクロロブタジエンは、経口摂取、吸入、皮膚接触などを通じて、人体に深刻な影響を与える可能性があります。肝臓や腎臓への障害、中枢神経系の抑制、チアノーゼなどが報告されています。発がん性についても懸念されており、米国環境保護庁では、可能性のあるヒト発がん物質として分類しています。労働安全衛生に関する機関も、その毒性を認識しており、許容される暴露濃度を厳しく規制しています。

まとめ

ヘキサクロロブタジエンは、その優れた溶解性から塩素系化合物の処理に有用な化合物ですが、高い毒性と発がん性の可能性を考慮し、取り扱いには細心の注意が必要です。近年では、より安全な代替物質の開発が進められており、その使用は徐々に減少傾向にあります。

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