ヘルシップ

ヘルシップ（地獄船）とは

ヘルシップとは、戦争捕虜を輸送するために用いられる無标識の商船を指す言葉です。この用語は、特に日本が第二次世界大戦中に連合国の捕虜をアメリカ領フィリピンやイギリス領シンガポールから移送する際の船を指します。捕虜たちは、日本本土や台湾、朝鮮、そして満州国で労働者として働かされることとなりました。

ヘルシップの起源と歴史

「ヘルシップ」という言葉自体は、敵国からのプロパガンダや文芸表現の一環として使われてきました。実際に「ヘルシップ」と呼ばれる船の種類が存在していたわけではなく、過去にはアメリカ独立戦争時に使用されたHMSジャージーが、ひどい環境から「地獄」と呼ばれたことに由来しています。1936年にはアメリカで映画『Hell-Ship Morgan』が制作されましたが、これはフィクションの作品です。

第二次世界大戦中、「ヘルシップ」という言葉は初めてドイツの捕虜の輸送を指す言葉として使われ始めました。特に1940年2月、イギリス海軍の駆逐艦コサックによるアルトマルク号の事件で、逮捕されたイギリス商船の船員が「ヒトラーのヘルシップ」として報道されました。

日本におけるヘルシップの実態

日本のヘルシップは、1942年1月から始まった捕虜の移送の中で特に過酷な条件下で運用されました。連合国の攻撃により、シーレーンが阻害され、船舶の数も減少しました。その結果、捕虜たちは息もできないほど詰め込まれ、最低限の食糧や水も不足する状態に置かれました。

船倉に収容された捕虜は、便所も設置されず、バケツを使って過ごさざるを得ませんでした。このように、捕虜として輸送されたのはイギリス、オランダ、アメリカ、オーストラリアの兵士たちで、彼らが乗っていた船は攻撃を受けて遭難することも多かったのです。推計によれば、アメリカ軍の攻撃によって多くの捕虜が犠牲になりました。1942年から1945年にかけて、24隻の捕虜輸送船が遭難し、18,182人が乗船する中、10,834人が命を落としました。

こうした輸送船には赤十字の標識がなく、連合国軍の標的とされました。遭難した事例としては「勝鬨丸」、「楽洋丸」、「阿里山丸」、「順陽丸」などがあり、特に「順陽丸」は捕虜約1400人と労働者約4200人を乗せていた際に沈没し、多くの死亡者を出しました。

日本軍とその対応

日本は人員輸送に適した船舶を十分に保有しておらず、貨物船の改装を行い、捕虜の移送にも使用されました。軍需物資と共に多くの人員を輸送するため、設備面での不足が深刻でありました。輸送時には、換気や給水、照明が不十分であったため、脱出が困難でした。

そのため、捕虜の環境は極めて過酷で、軍隊輸送や一般労務者も同様の条件に置かれ、その中でも特に「ヘルシップ」と名付けるに相応しい状況であったのです。たとえば、軍隊輸送船「富山丸」は攻撃に遭い、約3700人の兵士が命を落としました。

輸送中の捕虜に対しても、日本軍には厳しい規律がある反面、環境の悪さが晒される結果となりました。また、1944年に行われた「能登丸」での捕虜輸送では、沈没の際に密約が存在したとされ、捕虜を上甲板に出す際に注意を払ったとの報告もあります。

終わりに

戦後、連合国は捕虜輸送に関する虐待の責任者を逮捕し、裁判にかけました。日本のヘルシップの歴史は、戦争による悲劇的な一面を表すものであり、そこには多くの人々の痛ましい記憶が残されています。

もう一度検索