ヘルマン・ギースラー

ヘルマン・ギースラー：ナチス建築家、その光と影

ヘルマン・ギースラー（1898年8月2日 - 1987年1月20日）は、ナチス・ドイツにおける重要な建築家であり、政治家でした。彼のキャリアは、第三帝国の都市計画に深く関わり、特にミュンヘンとリンツの改造計画において重要な役割を果たしました。しかし、彼の人生は単なる成功物語ではなく、ナチズムとの関わりによって多くの影を落としました。

生い立ちと初期のキャリア

ギースラーは、1898年にジーゲンで建築家一家に生まれました。兄には、ミュンヘン＝オーバーバイエルン大管区指導者となったパウル・ギースラーがいます。第一次世界大戦に従軍した後、1931年に国家社会主義ドイツ労働者党（ナチ党）に入党し、突撃隊（SA）にも入隊しました。彼はまた、ミュンヘンにおけるヒトラーの会食仲間の一人でもありました。

1938年1月30日、ギースラーはヴァイマール建築大学の教授に就任し、第三帝国の建築において重要な地位を確立しました。彼は、オルデンスブルク・ゾントホーフェンなど、ナチ党の重要な建築物を手がけました。

党運動首都建設総監としての活動

1938年12月21日、ギースラーは「党運動首都」ミュンヘンの都市改造を担当する「党運動首都建設総監」に任命されました。これは、前任者ヘルマン・アルカーの解任を受けたものでした。ギースラーの組織は、ヒトラー直属の組織として、法務管理局、計画局、執行局の三つのセクションで構成されていました。特筆すべきは、ミュンヘン中央駅のデザインを担当する「中央駅設計事務局」がパウル・ボナッツの管理下で組織に組み込まれていた点です。

ギースラーは総統令によってベルリン建設総監と同等の権限を与えられていましたが、彼の計画案がヒトラーの意向と異なる場合には、ヒトラーの承認を得る必要がありました。また、ベルリン建設総監のアルベルト・シュペーアとは、犬猿の仲であり、協力関係は築かれませんでした。

1939年には、バイエルン及びオストマルク建設全権委任者に任命され、その影響力をさらに拡大しました。

リンツ都市改造計画

1940年秋頃、ギースラーはヒトラーからリンツ市改造のための全国建設監督官ローデリヒ・フィックの補佐に任命されました。しかし、権限を巡ってフィックと対立し、最終的にはギースラーがすべての記念建造物の建築を任されることになりました。彼は、ベルクホーフや各地の総統大本営を頻繁に訪れ、リンツ都市改造の設計図や模型について説明を行いました。

1941年12月には、トート機関ギースラー建設隊司令官に任命され、1942年にはトート機関北ロシア動員分隊司令官となりました。1943年8月4日からは、選挙区3区（西ベルリン）選出のドイツ国会議員を務め、1944年からはトート機関ドイツ第VI動員分隊（バイエルン管轄）の指導者となりました。

戦争とその後

戦争中、ギースラーとアルベルト・シュペーアの間には建築様式に関する対立が存在しました。1944年9月には、「天才名簿」に名を連ね、最も重要な芸術家の一人に選ばれました。

1945年、ギースラーはツェル・アム・ゼーでアメリカ軍に逮捕され、ダッハウに抑留されました。1947年には、ミュールドルフ強制収容所における戦争犯罪で起訴され、終身刑を宣告されましたが、1951年10月にランツベルク刑務所から釈放されました。

1977年には、回顧録『もう一人のヒトラー』を出版し、最期までヒトラーの信奉者であることを公言しました。1987年1月20日、デュッセルドルフで死去しました。

キャリアの総括

ヘルマン・ギースラーは、ナチス・ドイツの建築家として、その才能を発揮し、多くの重要なプロジェクトに関与しました。しかし、彼のキャリアはナチズムと深く結びついており、その責任から逃れることはできませんでした。彼の生涯は、芸術と政治、そして倫理的な問題が複雑に絡み合った、暗い歴史の一面を映し出しています。

参考文献

Michael D. Miller、Andreas Schulz (2012). Gauleiter: The Regional Leaders Of The Nazi Party And Their Deputies, 1925-1945 (Herbert Albrecht-H. Wilhelm Huttmann-Volume 1. R. James Bender Publishing. ISBN 1-932970-21-5
ハイケ・B・ゲルテマーカー 著、酒寄進一 訳『ヒトラーに愛された女：真実のエヴァ・ブラウン』東京創元者、2012年。ISBN 978-4-488-00382-1。
* 八束はじめ、小山明『未完の帝国：ナチス・ドイツの建築と都市』福武書店、1991年。ISBN 4-8288-2378-6。

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