ヘル・アウェイツ

スレイヤー『ヘル・アウェイツ』：スラッシュメタルを深化させた傑作

『ヘル・アウェイツ』（Hell Awaits）は、アメリカのスラッシュメタルバンド、スレイヤーが1985年にリリースした2枚目のスタジオアルバムです。前作『ショウ・ノー・マーシー』の成功を受け、メタル・ブレイド・レコーズからの予算を得て制作されました。

アルバムの特徴

本作では、「地獄」や「悪魔」といった、後のスレイヤーの代名詞となるテーマが本格的に取り入れられました。また、マーシフル・フェイトからの影響を受け、楽曲は複雑さを増し、演奏時間も長くなる傾向にあります。プログレッシブな要素を取り入れたことで、単なるスラッシュメタルに留まらない、深みのある音楽性を確立しました。

制作の背景

前作の成功により、メタル・ブレイド・レコーズは本作の制作に十分な予算を確保しました。経験豊富なプロデューサーやエンジニアを起用し、サウンドクオリティの向上を図っています。しかし、当時のレコーディング環境は決して恵まれたものではなく、メンバーは苦労しながらも作品を完成させました。

エンジニアとして参加したロン・フェアは、ヘヴィメタルのアルバム制作は初めてでしたが、スレイヤーの演奏に圧倒されたと言います。スタジオでの彼らの演奏を見て「こいつら怒り狂ってるな！」と感じたと語っています。

楽曲について

1曲目の「Hell Awaits」のイントロは、悪魔的な声が響くおどろおどろしい雰囲気で始まります。この声は「Join us」という囁き声を逆再生したものです。アルバム全体を通して、邪悪で攻撃的なサウンドが展開されます。

歌詞の一部には、レコーディング時にスペルミスが見つかったものもありましたが、トム・アラヤはそのまま歌って録音したそうです。

Combat Tour

アルバム発売後、スレイヤーはエクソダス、ヴェノムと共に「Combat Tour」を行いました。このツアーを通じて、エクソダスとスレイヤーのメンバーは親交を深め、後にエクソダスのギタリスト、ゲイリー・ホルトがジェフ・ハンネマンのサポートを務めるきっかけとなりました。

しかし、このツアー中には、トム・アラヤがヴェノムのボーカリスト、クロノスの顔に小便をかけてしまうという事件も発生しました。酔っ払ったトム・アラヤがトイレの場所を尋ねた際、クロノスが冗談で「ここだ！俺の口だ！」と答えたため、トム・アラヤはそれを真に受けて実行してしまったのです。

評価と影響

アルバム自体はチャートインしませんでしたが、その後のメタルシーンに与えた影響は計り知れません。パンテラのフィル・アンセルモは「このアルバムはヘヴィミュージックにおけるすべての要素を持っている」と絶賛し、ダイムバッグ・ダレルはギター雑誌の企画で収録曲「At Dawn They Sleep」を「最も好きな12曲」の一つに選んでいます。

メタル・ブレイド・レコーズの社長ブライアン・スラゲルによると、現在までに全世界で100万枚以上を売り上げ、ミリオンセラーを達成しています。

『ヘル・アウェイツ』は、スレイヤーの音楽性を確立し、スラッシュメタルの可能性を広げた重要な作品として、今もなお多くのファンに愛され続けています。

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