ヘンリク・シェリング

ヘンリク・シェリング（Henryk Bolesław Szeryng）は、1918年9月22日にポーランドのワルシャワに生まれた、ユダヤ系のヴァイオリニストおよび作曲家である。後にメキシコに帰化し、その国籍で国際的に活躍した。

初期教育とキャリア

シェリングの音楽の道は幼少期に始まった。5歳で母親からピアノの手ほどきを受け、7歳からはヴァイオリンを手にし、モーリス・フレンケルの指導を受けた。その後、ベルリンに留学し、1929年から1932年にかけて名教師カール・フレッシュのもとで集中的にヴァイオリンの研鑽を積んだ。さらなる高みを目指し、彼はパリ音楽院に進学し、ジャック・ティボーに師事。1937年には首席で卒業という優秀な成績を収めている。ソリストとしてのデビューは早く、パリ音楽院在学中の1933年、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏して喝采を浴びた。ヴァイオリニストとしての活動と並行して、作曲にも関心を寄せ、1933年から1939年にかけてパリで著名な音楽家・教師であるナディア・ブーランジェに師事し、作曲の技術を磨いた。

戦中からメキシコへの移住

第二次世界大戦の勃発は、彼のキャリアに大きな影響を与えた。シェリングはポーランド亡命政府のために通訳として協力する傍ら、戦地の連合国軍のために慰問演奏を行い、音楽を通じて多くの人々に希望と慰めを届けた。この慰問活動でメキシコシティを訪れた際、現地の大学から職を得る機会に恵まれる。この地での生活を選んだ彼は、1946年にメキシコ市民権を取得し、メキシコを新たな活動拠点とした。市民権取得後は、一時的に演奏活動から距離を置き、教育活動に重点を置いていた。

演奏家としての転機と国際的評価

演奏家としてのキャリアに再び火がついたのは、1954年のことである。ニューヨークでのデビュー公演が非常に高い評価を受け、これを機にシェリングは国際的な演奏活動を再開した。その後の人生は、世界中の主要なオーケストラとの共演やリサイタルなど、幅広い演奏活動に捧げられた。彼の演奏は、古典的な様式美と洗練された技巧、そして深い音楽的洞察に満ちていた。

演奏スタイルと録音

シェリングは数多くの優れた録音を残しており、特にヨハン・ゼバスティアン・バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲盤は、ナタン・ミルシテインの演奏と並び称される歴史的な名盤として、現在も多くのヴァイオリニストや音楽愛好家から高く評価されている。室内楽の分野でも重要な足跡を残し、特にピアニストの巨匠アルトゥール・ルービンシュタインとは頻繁に共演し、厚い信頼関係で結ばれたパートナーとして知られている。彼らの共演によるベートーヴェンやブラームスのヴァイオリン・ソナタなどの録音は今なお聴き継がれている。レパートリーは古典派からロマン派、そして近現代にまで及び、ベートーヴェンやブラームスといった大家の作品はもちろん、母国ポーランドのヘンリク・ヴィエニャフスキやカロル・シマノフスキの作品を積極的に紹介した。また、メキシコの作曲家マヌエル・マリア・ポンセが彼に献呈したヴァイオリン協奏曲の初演と録音を行ったことも特筆される。

隠れた名曲の発掘

演奏活動だけでなく、楽譜の研究にも熱心で、長らく埋もれていた作品に光を当てる活動も行った。ニコロ・パガニーニのヴァイオリン協奏曲第3番を自身で発掘し、蘇演および録音を行ったことはその代表例である。この録音では、シェリング自らが作曲したカデンツァが用いられている。また、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが断片的に残したヴァイオリンとピアノのための協奏曲をフィリップ・ウィルビーが補筆完成させた版の録音なども行っており、知られざる作品の紹介にも尽力した。

使用楽器と晩年

生涯を通じて複数の名器を使用してきたが、特に有名なのは「ル・デューク」として知られる1743年製のグァルネリ・デル・ジェスである。この楽器の豊かな響きが、彼の技巧的かつ知的な演奏を見事に彩った。晩年も精力的な演奏活動を続けたが、1988年3月3日、ドイツのカッセル滞在中に70歳で客死した。彼の遺体は、生前長期にわたり拠点を置いていたモナコに埋葬されている。

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