ヘンリー・ハワード (画家)

ヘンリー・ハワード（Henry Howard RA、1769年 - 1847年）は、18世紀末から19世紀半ばにかけてイギリスで活躍した画家です。彼は特に肖像画、歴史画、そして文学作品からインスピレーションを得た絵画の分野で知られています。ロンドンの馬車製造職人の家に生まれたハワードは、早い時期から芸術の道へと進みました。

1786年、ハワードは画家のフィリップ・ライナグルに師事し、絵画制作の基礎を学び始めます。その後、1788年には権威あるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの美術学校に入学し、アカデミックな技法と理論を習得しました。この美術学校での学びの中で、彼は歴史画において顕著な才能を示し、複数の賞を獲得しています。

さらなる研鑽を積むため、ハワードは1791年3月から大陸ヨーロッパへの芸術修業に旅立ちました。彼はイタリアを中心に、フランスやスイスも訪れています。特にローマでの滞在は彼に大きな影響を与え、イギリスの著名な彫刻家であるジョン・フラクスマンやジョン・ディアといった芸術家たちとの交流を通じて、彫刻についても学ぶ機会を得ました。留学中の1792年には、ロイヤル・アカデミーに歴史画の作品を送ることで留学奨学金を得ることに成功し、これにより彼は1794年までイタリアに留まることができ、古典美術やルネサンス期の巨匠たちの作品に深く触れる貴重な時間を過ごしました。

イタリアでの修業を終えたハワードは、ウィーンとドレスデンを経由してイギリスに帰国しました。帰国後は、古典的な歴史画に加え、シェイクスピアやミルトンといった文学作品から主題を得た絵画や、肖像画など、多様なジャンルの作品を手がけるようになります。ロイヤル・アカデミーの展覧会には積極的に作品を出品し、特に1795年と1796年にはジョン・ミルトンの壮大な叙事詩『失楽園』に基づく一連の作品を発表し、好評を博しました。また、純粋な絵画制作にとどまらず、書籍のための挿絵や、当時隆盛を誇っていたジョサイア・ウェッジウッドの陶器デザイン、さらには古代ギリシア・ローマの芸術研究を支援するディレッタンティ協会が出版した古代彫刻の版画集の下絵制作にも関わるなど、幅広い活動を行いました。

画家としての評価が高まるにつれて、ヘンリー・ハワードはイギリス美術界における地位を確立していきます。1800年にはロイヤル・アカデミーの準会員に選出され、その存在を認められました。そして、1808年にはついにアカデミーの正会員という最高位の栄誉を得ます。アカデミー内での彼の活動はさらに重要なものとなり、1811年には事務局長および絵画教授という要職を兼任するに至りました。絵画教授として、彼は後進の育成にも尽力し、その系統的な講義内容は多くの学生に影響を与えました。彼の絵画講義の記録は、後に画家となった息子フランク・ハワードの手によって、父の没後である1848年に『絵画の原則』として出版され、当時の美術教育思想を知る貴重な資料となっています。

私生活においては、かつて師事したフィリップ・ライナグルの娘であるジェーンと、絵画を教える中で親交を深め、1801年または1803年頃に結婚しました。これにより、肖像画家・動物画家として活動していたラムゼー・リチャード・ライナグルは彼の義理の兄弟となりました。

長年にわたり画業と美術教育に貢献したヘンリー・ハワードは、1847年10月5日、オクスフォードにてその生涯を閉じました。

ヘンリー・ハワードは、古典的な美意識と文学的主題に基づいた作品から、肖像画や応用美術まで幅広く手掛けた多才な芸術家でした。ロイヤル・アカデミーにおいて要職を歴任し、教育者としても大きな影響力を持った彼の業績は、19世紀初頭のイギリス美術史において重要な一ページを飾るものです。

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