ヘール望遠鏡

ヘール望遠鏡：天文学史に残る巨鏡

アメリカ合衆国カリフォルニア州のパロマー天文台に鎮座するヘール望遠鏡は、天文学の歴史において重要な役割を果たした巨大な反射望遠鏡です。その口径は508cm（200インチ）と、1975年にソビエト連邦のBTA-6が完成するまで世界最大を誇りました。

巨鏡の誕生：ヘールとロックフェラー財団

ヘール望遠鏡の建設は、アメリカ合衆国の天文学者ジョージ・ヘール博士の熱意と、ロックフェラー財団からの巨額な資金提供によって実現しました。1928年、ヘール博士は600万ドルという莫大な資金を獲得し、カリフォルニア工科大学を主体としたプロジェクトがスタートしました。

精緻な設計と製造：技術の粋を集めて

望遠鏡の設計と製造には、当時最新の技術が投入されました。1/32スケール、1/10スケールの模型を用いた綿密な光学試験、そしてコーニング社の開発した耐熱ガラス「パイレックス」による主鏡の製作は、数々の困難を克服する挑戦でした。1934年末に完成した主鏡は、軽量化のために裏に穴を開けた革新的な構造でした。

主鏡の研磨には長年を要し、第二次世界大戦による中断も経験しました。1947年半ば、ようやく満足のいく放物面が得られ、パロマー天文台へと輸送されました。クーデ式望遠鏡用の平面鏡は、その巨大なサイズと形状から製作に難航しましたが、1948年2月に完成しました。

開台式と観測開始：新たな時代の幕開け

1948年6月、ヘール望遠鏡の完成を祝う盛大な式典が開催されました。アメリカ天文学会と太平洋天文学会の800名を超える参加者が見守る中、カリフォルニア工科大学のリー・アルヴァン・デュブリッジによって「ヘール望遠鏡」と命名されました。

その夜行われた観測会では、土星環や球状星団M3、銀河などが鮮明に観測され、新たな天文学時代の幕開けを象徴する出来事となりました。

ヘール望遠鏡の構造：革新的な技術

ヘール望遠鏡は、カセグレン式、クーデ式など複数の焦点方式に対応できる多様な構造を持っています。主鏡は口径508cm、焦点距離16.5mの回転放物面鏡で、カセグレン式では焦点距離81.3m、クーデ式では焦点距離152.4mとなります。

また、セルリエトラスによる柔軟な構造を採用することで、主鏡と焦点部の位置関係を常に正確に維持し、光軸のずれを防いでいます。この技術は、後の大型望遠鏡にも受け継がれています。赤道儀は馬蹄型の特殊な構造で、極軸方向の観測も可能にしました。巨大なドームは、直径41.8m、高さ50mの鋼鉄製です。

ヘール望遠鏡の遺産

ヘール望遠鏡は、半世紀以上にわたって天文学研究の中心的な役割を果たし、数多くの重要な発見に貢献しました。その巨鏡と革新的な技術は、天文学の歴史に大きな足跡を残し、現代の天文学の発展に多大な影響を与え続けています。現在でも補償光学技術などを用いて、活発な観測活動が行われています。その存在は、人類の宇宙への探求心を象徴する存在と言えるでしょう。

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