ベガ1号

ベガ1号：金星とハレー彗星探査の軌跡

ベガ1号は、ソビエト連邦が1984年12月15日に打ち上げた宇宙探査機です。ベガ計画の中核として、金星の大気と地表、そしてハレー彗星の観測を目的としていました。ベネラ計画で培われた技術を基に設計・製造され、高度な観測機器を搭載したこの探査機は、惑星探査の歴史に大きな足跡を残しました。

金星探査：大気圏突入とバルーン観測

1985年6月11日、ベガ1号は金星の大気圏に突入しました。探査機は、直径2.4メートルの球形ランダーと、大気中を浮遊するバルーン探査機から構成されていました。ランダーは、高度な科学機器を用いて金星地表の調査を行い、大気の組成や気象データなどを収集しました。フランスとの共同開発による機器も搭載され、国際協力の成果も生かされています。しかし、予想を上回る大気乱流のため、一部の機器は地表に到達する前に作動してしまい、全ての観測目標を達成することはできませんでした。

一方、バルーン探査機は、金星の大気中を約2日間浮遊し、広範囲にわたる観測を行いました。高度約54キロメートルに浮かびながら、風に乗って約11,600キロメートルも移動し、大気の温度、気圧、風速などのデータを収集しました。バルーン観測は、金星大気のダイナミクスを理解する上で、貴重なデータを提供しました。ランダーは、アフロディーテ大陸北部のマーメイド平原に着陸し、地表サンプルの分析や大気成分の測定を行いました。

ハレー彗星探査：貴重な画像データの取得

金星探査の後、ベガ1号はハレー彗星へと向かいました。1986年3月6日、ベガ1号はハレー彗星に最接近し、約8,889キロメートルの距離から彗星の核を観測しました。この接近観測では、500枚以上の画像が撮影され、彗星の核の形状、大きさ、自転周期などが明らかになりました。撮影された画像は、ジオット探査機の観測計画にも役立てられました。

ベガ1号が撮影した画像から、ハレー彗星の核は長径約14キロメートルの不規則な形状をしており、約53時間の周期で自転していることが分かりました。また、彗星核の表面温度は予想以上に高く、氷で覆われた薄い表層を持つことが示唆されました。さらに、質量分析器による観測から、彗星の塵の組成が炭素質コンドライトに似ており、クラスレート（水和物）氷も含まれていることが判明しました。これらの発見は、彗星の形成と進化に関する理解を深める上で重要な成果となりました。

ベガ計画の成果とその後

ベガ1号は、金星とハレー彗星の両方を観測するという、野心的なミッションを成功させました。金星の大気と地表、そしてハレー彗星の核に関する貴重なデータを取得し、惑星科学の発展に大きく貢献しました。ベガ1号の観測データは、現在も研究者によって分析され、太陽系における惑星の形成や進化に関する理解を深めるために活用されています。ベガ1号は、1987年1月に姿勢制御用推進剤を使い果たし、その後は太陽周回軌道に留まりました。ベガ計画は、ソ連の宇宙探査技術の高さを示す成功例として、歴史に刻まれています。

もう一度検索