ベドジフ・フォイエルシュタイン

ベドジフ・フォイエルシュタイン：アール・デコとモダニズムを繋いだ夭逝の建築家

ベドジフ・フォイエルシュタイン（1892年-1936年）は、20世紀前半、日本を含む国際舞台で活躍したチェコ出身の建築家です。画家やエッセイストとしての顔も持ち、特に舞台装置家としての才能も高く評価されました。彼の短い生涯は、才能と悲劇が複雑に絡み合った物語です。

プラハからパリへ：才能の開花

チェコ共和国のドブロヴィツェに生まれたフォイエルシュタインは、プラハの工業学校とチェコ工科大学で建築を学びました。その後、パリのハーブル校でも研鑽を積み、プラハで自身の設計事務所を開設。プラハ国立劇場の舞台装置などを手がけ、成功を収めます。

特に注目すべきは、チェコの新興芸術運動「デベェトシル」への参加です。詩人、画家、文学者、劇作家など、多くの芸術家と交流し、刺激を受けながら、建築家としてのキャリアを築き上げました。カレル・チャペックの代表作『R.U.R.（人造人間）』など、演劇史に残る作品の数々の舞台装置を担当したことは、彼の名声を高める大きな要因となりました。

パリ万博とアール・デコ：多様な表現

パリに移住したフォイエルシュタインは、アール・デコ様式と深く関わるようになります。アール・デコ博覧会（1925年）の劇場設計に携わったほか、自身の作品であるマルロヴの『エドワード二世』の舞台装置を同博覧会に出品しました。興味深いのは、『エドワード二世』の舞台装置はアール・デコ様式とはやや異なる独自の作風だったことです。彼は、アール・デコとモダニズムの両面に精通し、それらを自由に融合させる卓越した能力を持っていました。

日本での活躍とレーモンドとの協働

1929年、フォイエルシュタインは日本に渡来します。駐日ソ連大使館の設計などを手がけた後、アントニン・レーモンドと協働して数多くの建築プロジェクトに携わりました。レーモンドはフォイエルシュタインを高く評価し、その才能を自身の事務所に活かしました。

両者による協働作品として、ライジングサン石油横浜本社ビル（現存せず）、ライジングサン石油社宅群、聖路加国際病院旧病院棟などが挙げられます。これらの建物は、日本のモダニズム建築史における重要な作品であり、フォイエルシュタインのアール・デコとモダニズムを融合させた独特のスタイルが見て取れます。特に聖路加国際病院では、病棟中心部の尖塔や礼拝堂のステンドグラスのデザインを担当しました。

レーモンド事務所の同僚だった土浦亀城は、フォイエルシュタインの加入がレーモンドの建築スタイルに大きな変化をもたらしたと証言しています。フォイエルシュタインが持ち込んだ「ペレー風」のデザインは、レーモンドがそれまで強く影響を受けていたフランク・ロイド・ライトからの脱却を促したと言われています。

悲劇的な最期

日本での成功の後、フォイエルシュタインは金銭問題や精神的な問題を抱え、1936年に自ら命を絶ちました。彼の早すぎる死は、周囲の人々に深い悲しみと、多くの才能が失われたという無念を残しました。カレル・チャペックも、フォイエルシュタインを悼む追悼文を寄稿しています。

参考文献

ヘレナ・チャプコヴァー『ベドジフ・フォイエルシュタインと日本』（阿部賢一訳、成文社、2021年）
東京建築探偵団『近代建築ガイドブック関東編』（鹿島出版会、昭和57年）
藤森照信『建築探偵　神出鬼没』、『建築探偵奇想天外』（朝日文庫）
岡田忠一編集『舞台建築 建築家ファイアースタイン』（昭和2年）
佐藤雪野、日本を愛したチェコ人建築家B.フォイエルシュタイン.（SD,286,44-45、1988年、鹿島出版会）
八束はじめ『ロシア・アヴァンギャルド建築』

まとめ

ベドジフ・フォイエルシュタインは、アール・デコとモダニズム建築の両方に精通し、舞台装置家としても才能を発揮した稀有な建築家でした。彼の短い生涯は、輝かしい成功と悲劇的な最期が対照的に描かれる、波乱に満ちた物語です。彼の作品は、今もなお人々の記憶に残り、建築史に大きな足跡を残しています。

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