ベネズエラ国営石油会社

ペトローレオス・デ・ベネスエラ（PDVSA）

ペトローレオス・デ・ベネスエラ（PDVSA）は、ベネズエラ政府が100%出資する国営石油会社であり、ベネズエラの石油産業を担う重要な組織です。日本ではベネズエラ国営石油公社、またはベネズエラ石油公団とも呼ばれます。

概要

ベネズエラは、マラカイボ湖やオリノコ川流域に豊富な原油と超重質油の埋蔵量を誇ります。かつては国際石油資本（石油メジャー）が開発を進めていましたが、1976年にベネズエラ政府が油田の国有化を宣言し、PDVSAが設立されました。

マラカイボ湖周辺では軽質原油が、オリノコ川流域（オリノコ・ベルト地帯）では「オリノコ超重質油」と呼ばれる重質原油が産出されます。オリノコ超重質油は比重が重く流動性がないため、通常の石油精製施設では精製できません。そのため、埋蔵量は膨大であるにもかかわらず、本格的な生産は1990年代以降となりました。

1990年代までは、PDVSAは国営企業でありながらも政府からの経営介入が少なく、世界的に見ても優秀な石油会社として知られていました。しかし、1999年にウゴ・チャベス大統領が政権を握って以降、政府の経営介入が強まり、油田や製油所への投資削減、国庫納付金の引き上げなどにより経営が圧迫されています。2019年には、ニコラス・マドゥロ大統領の再選を認めないアメリカが、PDVSAを経済制裁の対象としました。これは、PDVSAがマドゥロ政権の財政基盤となっていると判断されたためです。

一方で、PDVSAは国有化されたベネズエラ国内の様々な産業の受け皿企業としての側面も持っています。2006年には電力事業、2008年にはセメント事業を傘下に収め、2008年には食品流通・販売部門としてPDVALを設立しました。また、子会社にはアメリカでガソリンなどを販売するシットゴーがあります。

問題点

2006年、チャベス政権はオリノコ川流域で超重質油開発を行う外資系企業に対し、「開発に関わる全ての合弁企業においてPDVSAが60%以上のシェアを持つ」ことを要求しました。この要求に反発したエクソンモービルをはじめとする複数の石油メジャーがベネズエラから撤退し、エクソンモービルとは撤退に伴う損害賠償を巡り裁判に発展しました。国際商業会議所は2012年、ベネズエラ政府に対しエクソンへの約9億ドルの支払いを命じる裁定を下しましたが、反訴を受けて約7億5000万ドルに減額されました。

また、PDVSAは2011年から、ベネズエラ人ドライバーのパストール・マルドナドを支援するため、F1のウィリアムズチームのスポンサーを務めていました（マルドナドの移籍に伴い、2014年からはロータスF1チームにスポンサード先を変更）。しかし、スポンサー料が異常に高額であるとして、ベネズエラ議会が調査に乗り出しました。

経営危機

ベネズエラの原油は超重質油が多いため、生産コストが1バレルあたり70-80ドルと他国に比べて非常に高くなっています。2014年には原油価格が1バレル100ドルを超す原油高となり、PDVSAの経営は安定していましたが、2015年にはアメリカ合衆国内のシェールオイル増産などの影響により原油価格が暴落し、PDVSAの収入が激減して経営環境が急速に悪化しました。

2017年には、油井掘削や油田の保守に必要な資金調達が困難になり、施設の老朽化も進行したため、国内生産量が減少しました。その結果、OPECの生産割当量を下回るようになり、減産と資金難のスパイラルに陥りました。2018年1月には、原油生産量が日量160万バレルと前年同月比で20%減を記録し、過去30年間で最低水準まで生産量が減少しました。

2020年2月、アメリカ政府はマドゥロ政権の石油取引を仲介したとして、ロシアのロスネフチとの合弁企業を制裁対象に指定しました。これを受けてロスネフチはベネズエラからの撤退を発表し、石油採掘や国外販売のバックボーンの一つを失うこととなりました。

しかし、2022年に入り、2022年ロシアのウクライナ侵攻の影響でロシア産原油の禁輸措置が検討されるようになると、アメリカはベネズエラ産原油のアメリカへの輸入禁止措置を緩和する方針を打ち出しました。これは、親露国であるベネズエラをロシアから引き離す狙いがあると見られています。

外部リンク

* PDVSA

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