ベネラ1号

ベネラ1号：人類初の金星探査への挑戦

1961年2月12日、ソビエト連邦は人類初の金星探査機であるベネラ1号を打ち上げました。当時、西側諸国ではスプートニク8号と呼ばれていました。ベネラ1号は、金星探査という未踏の領域に挑んだ、画期的な探査機でした。

探査機の設計と搭載機器

ベネラ1号は、直径1.05メートルの円柱形の機体にドーム状の頭部が付いた、高さ2.035メートル、重量643.5キログラムの探査機でした。内部は1.2気圧の窒素ガスで満たされ、温度制御のためのファンが搭載されていました。機体側面には、金星からの通信に使用される予定の直径2メートル以上のワイヤーメッシュパラボラアンテナ、2.4メートルのアンテナブーム、T字型アンテナなどが備え付けられていました。また、太陽電池パネル2枚を展開し、内部の銀亜鉛電池を充電する仕組みでした。

搭載された観測機器は10種類にも及び、太陽風や宇宙線の検出、磁場の測定、温度測定、赤外線や紫外線の観測など、多様な観測能力を有していました。中でも、微小隕石や太陽風を検知する測定器、ガイガー計数管、磁束磁力計、光電子増倍管、温度計、赤外線および紫外線放射計などが主な機器でした。軌道修正のため、KDU-414エンジンも搭載されていました。熱シャッターによる内部温度調整機構も備えていました。

ミッションの経過

ベネラ1号の打ち上げは、2段階で行われました。まずモルニヤロケットを使用して、探査機と4段目ロケットを一体として地球周回軌道に投入し、その後、4段目ロケットに点火して金星への軌道に乗せました。これは、軌道上から効率的に探査機を打ち上げる画期的な手法でした。また、無重力下で動作する世界初の再点火可能なロケットエンジン11D33の初飛行となりました。

地球から約190万キロメートル離れた地点で、3回のテレメトリー送信が成功し、地球地磁気圏付近で観測された太陽風と宇宙線データが地球に送信されました。これにより、太陽風を伴うプラズマが深宇宙にまで及んでいることが確認されました。しかし、予定されていた観測データの送信は7日後に途絶えてしまいます。その後、1961年5月19日と20日には金星の10万キロメートル圏内に接近し、太陽周回軌道に入ったと推測されています。6月には英国のジョドレルバンク天文台電波望遠鏡によって、ベネラ1号からの微弱な信号が検出されたという報告もありますが、詳細は不明です。ソ連のエンジニアは、太陽方向センサーの過熱が故障原因だったと考えていました。

ベネラ1号の意義

ベネラ1号は、宇宙探査機設計における重要なマイルストーンとなりました。近代的な宇宙探査機の最初の例であり、それまでの探査機にはない多くの先進技術を搭載していました。姿勢制御はスピンをかけた状態で行われることがほとんどでしたが、ベネラ1号は中間軌道修正のためにスピンを解除し、太陽と星（カノープス）を利用して機体姿勢を制御する3軸安定モードへ移行できる設計になっていました。金星到達後には、太陽と地球を用いた別の3軸安定モードに移行し、パラボラアンテナでデータ送信を行う予定でした。

ベネラ1号は、成功したとは言えないミッションではありましたが、その技術的な挑戦と、後の金星探査計画への貢献は計り知れません。宇宙探査の歴史に大きな足跡を残した探査機と言えるでしょう。

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