ベビーカーマーク

ベビーカーマークとは

ベビーカーマークは、公共交通機関などでのベビーカー利用に関する安全性と快適性を向上させる目的で、国土交通省が2014年3月に制定した統一的な図記号（ピクトグラム）です。

このマークが導入された背景には、鉄道などの公共交通機関を利用する際に、ベビーカーを使用していることに対する他の乗客からの苦情が増加傾向にあったことが挙げられます。

制定の経緯

政府は2010年に閣議決定した「子ども・子育てビジョン」において、子育てを親や家族のみが担うのではなく、社会全体で支える「子どもと子育てを応援する社会」への転換を提唱しました。これを受けて、国土交通省では高齢者や障害者などの移動円滑化を促進する交通バリアフリー法に基づき、公共交通機関のバリアフリー化を推進。2013年6月に改訂された「公共交通機関の移動等円滑化整備ガイドライン」では、車両内の空間確保やエレベーター設置において、ベビーカー利用にも配慮した設計が望ましいとの方針が示されました。

こうした行政の取り組みにより、乳幼児連れの外出や移動の負担は軽減されつつありますが、ベビーカーに子供を乗せ、さらに荷物を持つと約20kgもの重さになることもあり、依然として移動が困難な場面が多く存在します。また、主要なターミナル駅では、ベビーカー利用者の割合が車椅子利用者の20倍から30倍にあたる1～2%に達すると推測されており、エレベーターの混雑による高齢者や車椅子利用者との競合、ホームからのベビーカー転落、車両扉への挟み込み、緊急停止したエスカレーターからの転落など、ベビーカー利用に関連する事故も報告されています。

こうした安全上の懸念に対応するため、交通事業者の約3割では、各社独自のルールやマークを用いてベビーカー利用に関する案内や取り組みを行ってきました。しかし、その際に使用されるベビーカーに関する図案は統一されておらず、JIS化されていた「ベビーカー使用禁止マーク」をアレンジしたもの、子供を乗せたベビーカーのみを描いたもの、ベビーカー単独のものなど、様々なデザインが混在していました。この図案の不統一は、利用者の混乱を招く可能性がありました。

統一マークの制定

このような背景から、国土交通省は統一的なベビーカーマークを定めることとし、複数の図案案を検討しました。具体的には、以下の5つの案が示されました。

1. JR東日本などで使用実績のある、JISマークを基にした案（案1）
2. 都営バスなどで使用実績のある、案1から性別表現を排除した案（案2）
3. 案2の人物の姿勢を立位に変更した案（案3）
4. 東京メトロなどで使用実績のある、子供を乗せたベビーカーのみの案（案4）
5. 日本国外で広く使われている、子供を乗せていないベビーカー単独の案（案5）

これらの案のうち、案4と案5については、「子供を放置している」といった誤ったイメージを与える可能性があるとして、候補から外されました。残る案1から案3について、ウェブサイトでの調査を通じて、利用者の理解度や視認性に関する試験が実施されました。その結果、性別による区別のないデザインである案2が最も適切と判断され、最終的なデザインに微調整が加えられた上で、統一的なベビーカーマークとして正式に制定されました。

普及と採用状況

制定されたベビーカーマークは、鉄道車両内だけでなく、路線バス、駅構内のエレベーターなど、様々な公共交通機関の施設や車両に展開が進められています。例えば、2015年に登場した日野自動車のブルーリボンハイブリッドの公式カタログにもこのマークが採用されています。E235系のような一部の鉄道車両では、床面にマークが貼付されるなど、視覚的な案内の強化も図られています。

現在、このベビーカーマークは、以下をはじめとする全国の主要な交通事業者で採用されています（国土交通省「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会とりまとめ」図1参照）。

札幌市交通局
仙台市交通局
東京地下鉄（東京メトロ）
東京都交通局
横浜市交通局
名古屋市交通局
大阪市交通局
京都市交通局
神戸市交通局
福岡市交通局
東日本旅客鉄道（JR東日本）
西日本旅客鉄道（JR西日本）
東海旅客鉄道（JR東海）
東武鉄道
西武鉄道
京成電鉄
新京成電鉄
京浜急行電鉄
小田急電鉄
京王電鉄
相模鉄道
東京急行電鉄（東急電鉄）
東葉高速鉄道
阪急電鉄
* 阪神電鉄

ベビーカーマークの普及は、ベビーカー利用者だけでなく、他の乗客や交通事業者にとっても、より安全で快適な公共交通環境の実現に寄与することが期待されています。

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