ベルナール・パリッシー

ベルナール・パリッシー：ルネサンス期の陶工、科学者、そして殉教者

ベルナール・パリッシー（Bernard Palissy, 1510年頃 - 1590年）は、16世紀フランスのルネサンス期に活躍した陶工であり、その生涯は波乱に満ちていました。陶芸家としての功績だけでなく、自然科学者、著述家としても名を残しています。

生涯：逆境を乗り越えた探求

パリッシーは、ガラス工として各地を転々としながら、その技術を磨きました。しかし、ガラス工の需要が減少し、測量の仕事に就いた後、独学で陶芸の研究に没頭します。貧困にあえぎながらも、家具や床板を燃料にするほど研究に情熱を燃やし、15年もの歳月をかけて独自の釉薬の技法を完成させました。こうして生み出されたのが、「田園風土器」と呼ばれる作品群です。自然をモチーフにした写実的な装飾が特徴で、当時の人々を魅了しました。

その最大の作品は、テュイルリー宮殿の庭園に作られた陶製の人工洞窟「フィギュリーヌ」です。自然の風景を模したこの壮大な作品は、パリッシーの技術力と芸術性を象徴しています。

宗教的迫害と庇護

パリッシーはプロテスタント（新教徒）であったため、宗教的な迫害を受けましたが、その才能を認めたアンヌ・ド・モンモランシー将軍やカトリーヌ・ド・メディチの庇護を受け、テュイルリー宮殿内の工房で王室のために作品を制作しました。カトリーヌ・ド・メディチは、パリッシーの科学的な知識と創造性を高く評価していたと考えられています。

自然科学への貢献

陶芸家としての活動の傍ら、パリッシーは自然科学にも深い関心を抱いていました。1575年から約10年間、パリで地質学、鉱物学、博物学などに関する講演会を開催し、その知識を人々に伝えました。また、1580年と1583年には農学など、自然科学に関する論文集を出版しています。これらの活動からも、パリッシーが単なる陶工ではなく、幅広い知識と探究心を持つ人物であったことが伺えます。

悲劇的な最期

1585年の勅令により、新教徒はカトリックへの改宗か国外亡命を迫られましたが、パリッシーはこれを拒否しました。庇護者であったカトリーヌ・ド・メディチが1589年に亡くなると、彼は捕らえられ、バスティーユ牢獄で獄死しました。その生涯は、宗教的な対立の中で翻弄された悲劇的なものでした。

啓蒙主義の先駆けと歪められた評価

パリッシーは、独学で多くを学んだ自然主義者であり、啓蒙主義の先駆けの一人とも言えます。しかし、ヴォルテールによってパリッシーの人物像は歪曲されて伝えられ、その業績は長い間忘れ去られていました。しかし、明治時代になって中村敬宇が訳した『西国立志編』にパリッシーの伝記が掲載されたことで、その事績は再び注目されるようになりました。

著作

邦訳されている著書には、以下があります。

「陶工パリシーのルネサンス博物問答 佐藤和生訳 1993年 晶文社」

原書は「Bernard Palissy : Recepte Veritable 1563」です。

参考文献

マグロンヌ・トゥーサン＝サマ 著、玉村豊男 訳『世界食物百科』原書房、1998年。ISBN 4562030534。

関連項目

陶芸

外部リンク

陶工巴律西（パリッシー）（中村敬宇）（日本漢文の世界）

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