ベル神殿

ベル神殿：パルミラの歴史を刻む古代の聖域

ベル神殿は、シリアの砂漠都市パルミラに位置する古代の神殿遺跡です。この神殿は、パルミラで崇拝されていたセム人の神ベル（バアルとも呼ばれる）に捧げられたもので、月神アグリボールと太陽神ヤルヒボールと共に三位一体の神として、この都市の宗教生活において中心的な役割を果たしていました。

歴史

この神殿は、紀元前3千年紀まで遡る人類の居住跡の上に建てられており、その地層からは青銅器時代中期（紀元前2200-1550年）初期の痕跡が発見されています。神殿の建設以前には、ヘレニズム時代に建てられた「最初のベル神殿」とも呼ばれる神殿が存在していました。現在の神殿の聖域とその入口を構成する周壁は、西暦1世紀後半から2世紀前半にかけて建設され、境内にはかつて寄進者の彫像が飾られたコリント式の列柱が並んでいました。

東ローマ帝国時代には、この神殿はキリスト教の教会として転用されました。1132年には、アラブ人によって一部が改造され、モスクとして使用されるようになり、その構造が維持されていました。神殿は、1920年代までモスクとして利用されていましたが、2015年にイスラム過激派組織ISILによって破壊されました。

建築様式

ベル神殿は、古代オリエントとギリシア・ローマ建築が見事に融合した例です。神殿の敷地は、南北205メートル、東西210メートルの巨大な周壁で囲まれ、プロピュライア（入口）が設けられています。西側の記念門から入ると、舗装された境内が現れ、そこに本殿が位置しています。本殿は長方形の形をしており、南北に向いて建てられています。本殿の中央の基壇上には内陣があり、コリント式の柱で囲まれた柱廊がありました。

内陣は、その内部に2つの聖域を持つという点で独特です。北と南には神像安置所（アディトン）があり、それぞれベル神と他の地元の神々が祀られていました。北側の安置所の天井には、黄道帯の12宮に囲まれた7つの惑星神の浅浮き彫りが施され、ベル神を象徴する翼を広げた鷲が描かれていました。また、南側の安置所には階段があり、祭礼の際に三位神の像を運び出していたと考えられています。内陣の壁には、2対の窓があり、そこから光が差し込み、屋上テラスへの階段は3箇所ありました。

柱廊の天井を支えていた梁は、本殿の横に置かれており、そのうちの1本には、ラクダやベールをかぶった女性の行列が彫刻されていました。もう1本の梁には、三日月を肩に乗せたアグリボール、神殿の列柱、果物を供えた祭壇、馬に乗った神や6柱の神々が刻まれていました。

境内には、流し台、祭壇、食堂、壁龕を備えた建物の遺構があり、北西の隅には、生贄の動物を境内に引き込むための傾斜路がありました。1132年にアラブ人によって改修された際には、堡塁が築かれ、神殿はモスクとして転用されたことで、更なる損害から保護されました。

破壊と現状

2015年8月30日、ISILによって爆発物が使用され、神殿は部分的に破壊されました。目撃者の証言やシリア人権監視団の報告によると、石塊や柱が崩壊し、壁のみが残ったとされています。国連の衛星画像分析によって、本殿とその列柱が破壊されたことが確認されました。神殿の入口だけが、破壊を免れました。

ベル神殿は、その建築様式、歴史的背景から非常に重要な遺跡であり、その破壊は文化遺産への深刻な攻撃として世界中で非難されています。

参考文献

アドナン＝ブンニ、ハレド＝アル＝アサド 著、小玉新次郎 訳『パルミラの遺跡』東京新聞出版局、1988年。
Gates, Charkes (2003). Ancient Cities: The Archaeology of Urban Life in the Ancient Near East and Egypt, Greece and Rome. Routledge.
Kaizer, Ted (2002). The Religious Life of Palmyra: A Study of the Social Patterns of Worship in the Roman Period. Franz Steiner Verlag.
Cremin, Aedeen (2007). Archaeologica: The World's Most Significant Sites and Cultural Treasures. Frances Lincoln.

外部リンク

Syria: Temple of Bel, www.traveladventures.org
Temple of Bel, Palmyra, Khan Academy

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