ベンジジン

ベンジジン：発癌性物質としての歴史と現状

ベンジジン（4,4'-ジアミノビフェニル）は、芳香族アミンに分類される有機化合物です。かつては様々な用途で利用されてきましたが、その強力な発癌性のため、現在では世界各国で厳しく規制されています。

性質と合成

純粋なベンジジンは白色の固体ですが、空気や光によって容易に酸化され、暗赤色に変色します。水への溶解度は低いものの、塩酸塩は水に溶解します。

ベンジジンの合成は、ニトロベンゼンから1,2-ジフェニルヒドラジンを合成し、これを酸を用いて転位反応させることで行われます。この反応は「ベンジジン転位」として知られており、様々な置換基を持つベンジジン誘導体の合成にも応用されています。

過去の用途と発癌性

ベンジジンは、その発癌性が明らかになる以前は、化学染料の製造に広く用いられてきました。しかし、ベンジジンそのものだけでなく、それを用いた製品からも膀胱癌などの発癌リスクが確認されたことから、1970年代以降、その産業利用は大幅に制限されるようになりました。

具体的には、アニリンやトルイジンと同様に、亜硝酸ナトリウムとの反応によってアゾ化合物（テトラゾニウム）を生成させ、カップリング反応を経て不溶性の顔料を合成するのに用いられていました。現在でも、3,3'-ジクロロベンジジンなどの置換ベンジジンは、Pigment Yellow 83などのジアリライド顔料の骨格として利用されています。

その他、ゴムやプラスチックの合成、酸化還元指示薬、血液や過酸化水素、ニコチンの検出などにも使用されていました。

法規制

1960年代以降、ベンジジンの強力な発癌性、特に膀胱癌を引き起こすリスクが明らかになったことから、世界各国でその取り扱いが厳しく規制されています。

日本では1972年の労働安全衛生法により、試験研究用途を除き、ベンジジンの製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されています。EU、カナダ、韓国などでも、同様の製造禁止措置がとられています。

まとめ

ベンジジンは、その有用性とは裏腹に、極めて危険な発癌性物質であることが判明し、その製造と使用は世界的に厳しく制限されています。この物質の危険性に関する情報は、化学物質の取り扱いにおけるリスク管理の重要性を改めて示すものです。 現在では、より安全な代替物質が開発され、使用されています。ベンジジンの歴史は、化学物質の安全性の重要性を理解し、適切なリスク評価と管理を行う必要性を示す、重要な事例となっています。

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