ベンゾピレン

ベンゾ[a]ピレン：環境と健康への脅威

ベンゾ[a]ピレンは、5つのベンゼン環が結合した多環芳香族炭化水素（PAHs）の一種です。化学式はC₂₀H₁₂で、淡黄色の板状または針状結晶として存在します。国際がん研究機関（IARC）では、ヒトに対する発がん性が認められるグループ1に分類されており、発がん性、変異原性、催奇形性のリスクが懸念されています。

ベンゾ[a]ピレンの生成と環境中での挙動

ベンゾ[a]ピレンは、主に有機物の不完全燃焼によって生成されます。化石燃料や木材の燃焼、食品の調理、タバコ、自動車の排気ガスなど、様々な発生源が考えられます。大気中に放出されたベンゾ[a]ピレンは、浮遊粒子状物質として長期間大気中に滞留し、広範囲に拡散します。水や土壌に沈降した後も、分解されずに残存し続けます。酸化環境下では徐々に分解されますが、水圏での半減期は875日、土壌では290日と、環境中での残存期間は非常に長いです。嫌気的環境下ではほとんど分解されません。さらに、生物濃縮性を持つため、水生生物や海水産物に蓄積されることが確認されています。

ベンゾ[e]ピレンとの比較

ベンゾ[a]ピレンと同様の化学式（C₂₀H₁₂）を持つベンゾ[e]ピレンは、ベンゼン環の配置が異なり、発がん性についてはIARCグループ3（ヒトに対する発がん性が分類できない）に分類されています。

環境中濃度と発生源

ベンゾ[a]ピレンは、意図的に製造されるものではなく、様々な人間の活動に伴って発生します。過去の調査では、金属精錬、石油精製、家庭での薪の使用、屋外での焚き火、自動車などが主要な発生源として挙げられています。特に、喫煙や燻製など、煙を直接吸入する行為は、ベンゾ[a]ピレンへのばく露リスクを高めます。

日本の環境省による調査では、大気、水質、底質、食品など、様々な環境媒体においてベンゾ[a]ピレンが検出されています。検出濃度は媒体によって異なり、また、地域差も存在します。食品については、特に魚介類、焼き肉、焼き鳥などの調理食品に高濃度で含まれることが懸念されています。

人体への影響とリスク評価

ベンゾ[a]ピレンは、吸入、経口摂取、経皮吸収など、様々な経路で人体に影響を与えます。急性毒性は高くありませんが、長期間の高濃度ばく露は、発がんリスクを高めます。過去の疫学調査では、ベンゾ[a]ピレンへの高濃度ばく露と、肺がん、皮膚がん、その他の悪性腫瘍との関連性が示唆されています。

発がん機構

ベンゾ[a]ピレンは、体内で代謝酵素によって活性化され、DNAに損傷を与える物質に変換されます。この物質はDNAに結合し、遺伝子変異を引き起こし、最終的にがんを引き起こすと考えられています。

食品規制

WHOの報告書では、様々な食品からベンゾ[a]ピレンが検出されています。日本では、2012年時点では食品中のベンゾ[a]ピレンに関する規制値は設定されていませんでしたが、欧州、カナダ、中国、韓国などでは規制値が設定されています。

まとめ

ベンゾ[a]ピレンは、環境中に広く分布し、人体への発がんリスクを高める物質です。発生源の特定と、ばく露経路の削減、環境中濃度の低減、適切な規制、さらなる研究が重要です。食品については、特に調理方法に注意し、焦げ付きを避けることが重要です。また、喫煙などの煙の吸引は避けるべきです。

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