ペタル4世

ペタル4世：第二次ブルガリア帝国を築いた皇帝

ペタル4世（在位：1185/86年 - 1187/90年、1196年 - 1197年）は、第二次ブルガリア帝国の皇帝であり、その治世はブルガリアの歴史において重要な転換期となりました。彼の即位前の名前はテオドルといい、兄弟のイヴァン・アセンと共に、約170年間に及ぶビザンツ帝国による支配を終わらせ、ブルガリアの再独立を成し遂げました。ペタル4世は、一時的に独立政権を樹立したペタル・デリャンやコンスタンティン・ボディンを皇帝に含めない場合、ペタル2世と数えられることもあります。

生涯

1185年、ビザンツ皇帝イサキオス2世の結婚に伴い、ブルガリアには特別な税が課せられました。これに対し、北ブルガリアでは家畜や財産を守るための抵抗運動が起こり、テオドルと弟のアセンは税の軽減と特権の授与を求めてイサキオス2世に訴え出ましたが、拒否されました。それどころか、兄弟の一人はビザンツの廷臣に顔を打たれるという侮辱を受けました。この出来事がきっかけとなり、兄弟は領地に戻ると、ビザンツの重税に苦しむ民衆を糾合し、蜂起を決意します。

反乱軍は、タルノヴォを新たなブルガリアの首都と定め、独立した教会（ブルガリア正教会）を設立しました。テオドルたちは、タルノヴォの聖ディミタル教会に集まった民衆の前でブルガリアの再独立を宣言し、テオドルはブルガリア教会の大主教ヴァシリイ（バシル）から戴冠を受け、ペタル1世にあやかってペタルを名乗りました。反乱軍は、第一次ブルガリア帝国との連続性を強調するために、かつての首都プレスラフも首都としました。

ブルガリアの勢力はダニューブ川沿いに広がり、バルカン山脈を越えて東トラキア地方にまで進出し、ビザンツ軍を打ち破りました。事態を重く見たイサキオス2世は1186/87年に親征を行い、ブルガリア軍はダニューブ川の北へ退却しました。ビザンツ軍は北ブルガリアを荒らし、反乱は終息したと判断したイサキオス2世はコンスタンティノープルに軍を引き返しました。しかし、同年秋、クマン人の助力を得たブルガリア軍は再びダニューブ川を越え、ダニューブ川とバルカン山脈の間の地域を占領します。

1187/88年、ブルガリア軍が集結したロヴェチはビザンツ軍の包囲を受けますが、ブルガリア軍は3ヶ月に及ぶ包囲に耐え抜きました（ロヴェチ包囲）。この包囲の後、ブルガリアの再独立が承認され、ペタル4世は人質として末弟のカロヤンをコンスタンティノープルに送りました。戦後、ペタル4世は弟のイヴァン・アセンに譲位し、自身は北東ブルガリアとドブルジャを統治しました。ペタル4世はプレスラフに拠点を置き、彼が統治した地域は「ペタルの地」と呼ばれていました。

1196年、アセン1世がイヴァンコによって暗殺されると、ペタル4世はタルノヴォのイヴァンコを包囲し、彼をコンスタンティノープルに追放します。アセン1世の死後、ペタル4世は復位しますが、貴族の反発を抑えることができず、1197年に暗殺されてしまいます。彼の死後、コンスタンティノープルから脱走した末弟のカロヤンが帝位を継承しました。

ペタル4世は、ビザンツ帝国の支配からの解放を成し遂げ、ブルガリアの独立を回復させた重要な人物として、ブルガリアの歴史にその名を刻んでいます。彼の治世は短かったものの、第二次ブルガリア帝国の基礎を築き、その後のブルガリアの発展に大きく貢献しました。

参考文献

尚樹啓太郎『ビザンツ帝国史』（東海大学出版会, 1999年2月）
寺島憲治「アセン兄弟の蜂起」『東欧を知る事典』新訂増補収録（平凡社, 2001年3月）
森安達也、今井淳子共訳編『ブルガリア 風土と歴史』（恒文社, 1981年）
I.ディミトロフ、M.イスーソフ、I.ショポフ『ブルガリア』1（寺島憲治訳, 世界の教科書=歴史, ほるぷ出版, 1985年8月）

関連項目

* アセンとペタルの蜂起

もう一度検索