第一次ブルガリア帝国

第一次ブルガリア帝国：バルカン半島の強国とその興亡

第一次ブルガリア帝国は、7世紀から11世紀にかけて東南ヨーロッパに存在した、ブルガール人とスラヴ人が融合して生まれた国家です。680年から681年の建国以来、東ローマ帝国と幾度となく戦争を繰り返しながら、勢力を拡大し、独自の文化圏を形成しました。本稿では、その歴史、文化、社会構造について詳細に解説します。

建国と初期のブルガリア

アスパルフ率いるブルガール人のバルカン半島への南下、そしてオングロスの戦いで東ローマ帝国との講和が成立したことで、第一次ブルガリア帝国は誕生しました。当初はブルガール人とスラヴ人の連合国家でしたが、徐々に両民族は融合し、独自のブルガリア人国家としてのアイデンティティを築いていきました。

アスパルフの死後、テルヴェルは君主となり、東ローマ帝国との関係を巧みに操り、時に協力し、時に敵対しました。717年のコンスタンティノープル包囲戦では、東ローマ帝国と協力してウマイヤ朝の軍勢を撃退するなど、地域安定に貢献しました。しかし、その後はドゥロ家の滅亡に伴い内紛が頻発。東ローマ帝国との抗争も長期化しました。

勢力拡大と黄金時代

カルダム、クルム、オムルタグといった君主の時代を経て、ブルガリアは領土を拡大していきました。アヴァール崩壊後のパンノニア平原の併合、ペチェネグやクマン人との抗争、そしてマジャルとの決戦を経て、ブルガリアの勢力はドナウ大曲から黒海、アドリア海にまで及ぶようになりました。

9世紀末から10世紀初頭にかけては、シメオン1世の時代がブルガリアの黄金期とされます。彼は東ローマ帝国との戦争を繰り返し勝利を重ね、皇帝の称号を得て、領土を最大限に拡大しました。プレスラフを首都に遷し、文化・経済も大いに発展させました。この時代、古代教会スラヴ語（古ブルガリア語）の普及により、ブルガリアはスラヴ・ヨーロッパの文化の中心地となりました。グラゴル文字、そしてキリル文字の発明・普及もこの時代に行われました。

衰退と滅亡

しかし、シメオン1世の死後、ブルガリアは衰退へと向かいました。貴族の台頭、農民の反乱、ボゴミル派などの異端の出現、そして東ローマ帝国やマジャル、キエフ・ルーシといった周辺勢力の侵略がブルガリアを苦しめました。

960年代以降、東ローマ帝国のニケフォロス2世フォカス、ヨハネス1世ツィミスケスによる攻撃を受け、ブルガリアは弱体化していきました。キエフ・ルーシのスヴャトスラフ1世の侵攻もブルガリアを更に追い込み、1014年のクレディオンの戦いで東ローマ帝国に決定的な敗北を喫し、1018年にはついに滅亡しました。

文化と社会

第一次ブルガリア帝国の文化は、初期の異教文化から、キリスト教化後の東ローマの影響を受けた文化へと変化しました。マダラの騎士像などの石彫、壁画や陶器などの絵画、そしてキリル文字の発明など、独自の文化遺産を残しています。

社会構造は、貴族と農民の二分化が進み、封建的な色彩が強まりました。経済は農業と畜産業が中心でしたが、手工業や貿易も発展し、東ローマ帝国などとの交易も盛んに行われました。都市計画は、プリスカやプレスラフといった主要都市に、城壁や宮殿、教会などの大規模な建築物が建設されました。

まとめ

第一次ブルガリア帝国は、短命ではありましたが、東ローマ帝国と対抗し、独自の文化・社会を築いた、バルカン半島における重要な勢力でした。その歴史は、民族融合、宗教的変化、政治的抗争、そして文化交流など、様々な要素が複雑に絡み合ったものであり、中世ヨーロッパ史における重要な一ページを飾っています。 今後の研究においても、更なる詳細な事実解明が期待されています。

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