ペトルス・カンパー

ペトルス・カンパー（Petrus Camper、1722年5月11日 - 1789年4月7日）は、18世紀のオランダを代表する医学者、博物学者です。彼は、オランウータンの解剖学的研究を行い、人間との比較を通じて、その身体的特徴を明らかにしました。特に、顔面角という概念を提唱し、人種間の差異を説明しようとしたことで知られています。ペーテル（Peter）またはピーテル（Pieter）とも呼ばれます。

生涯

カンパーは、ライデンで生まれ、ライデン大学で医学を学びました。その後、1750年にフラーネカル大学の医学教授、1755年にはアムステルダム大学の外科学教授、そして1763年にはフロニンゲン大学の外科と植物学の教授を歴任しました。1773年に大学を辞任し、ヨーロッパ各地を旅行した後、1787年に国務院のメンバーとなり、ハーグでその生涯を閉じました。

研究内容

カンパーの研究の中でも特筆すべきは、オランウータンの解剖研究です。当時、ヨーロッパでは珍しかったオランウータンを入手し、解剖することで、その四肢や喉頭の構造を詳細に調べました。その結果、オランウータンが直立歩行や言葉を話すことができない理由を解明しました。

また、カンパーは、額の頂点から上顎の門歯の中央へ引いた線と、耳孔から鼻下へ引いた線との交わる角度（顔面角）に注目し、この角度がサル類や類人猿と人間の間で異なることを示しました。この顔面角の概念は、彼の最も重要な業績の一つです。

カンパーは、著書『さまざまな地方とさまざまな年齢の人間の容貌の差異について』において、比較解剖学的な実証に基づき、サル、オランウータン、古代ギリシア彫刻、カルムイク人、黒人など、人種や年齢による顔面の違いを説明するために、顔面角理論を提唱しました。しかし、この理論は本来、描画における人物の表現を助けるためのものでした。

当時の文化人類学においては、「体型と容貌の美醜」が強く意識されており、カンパーの理論も、古代ギリシア・ローマの絵画や彫刻に描かれた人間を理想とする古典主義美学の影響を受けていました。彼は、顔面角が前傾するほど美しく、威厳があると見なし、古代ギリシア人を最高美と位置づけました。具体的には、古代ギリシア人の顔面角を100度、ヨーロッパ人を80度、黒人やカルムイク人を70度、オランウータンを58度、サルを42度と定め、人種や類人猿の序列化を試みました。

カンパーの顔面角理論は、ゲオルク・フォルスターなど同時代の自然科学者たちに支持されましたが、後に人種差別的な解釈を生む要因にもなりました。カンパー自身は、序文の中で人種差別的な意図を否定しているものの、彼の理論は、ヨハン・カスパー・ラヴァーターの観相学、フランツ・ヨーゼフ・ガルの骨相学、チェーザレ・ロンブローゾの生来性犯罪者説、アルフォンス・ベルティヨンの人体測定法、ナチスドイツの反ユダヤ主義人種論など、優生学や人種論の言説に大きな影響を与えたとされています。

著作

カンパーは、多数の著作を残しており、その中には以下のようなものが含まれます。

Demonstrationes anatomico- pathologicae [1760–1762]
Dissertation sur les différences des traits du visage and Discours sur l'art de juger les passions de l'homme par les traits de son visage
On the Best Form of Shoe
Two lectures to the Amsterdam Drawing society on the facial angle (1770)
* On the Points of Similarity between the Human Species, Quadrupeds, Birds, and Fish; with Rules for Drawing, founded on this Similarity (1778)

まとめ

ペトルス・カンパーは、医学、博物学、解剖学において重要な貢献をした人物です。彼の顔面角理論は、後の人種論や優生学に影響を与えましたが、それは彼の意図とは異なるものであったと考えられています。カンパーの研究は、18世紀の科学思想や文化人類学を理解する上で不可欠なものと言えるでしょう。

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