ペトロの手紙一

ペトロの手紙一

『ペトロの手紙一』は、新約聖書に含まれる公同書簡の一つであり、使徒ペトロによって書かれたと伝えられています。この手紙は、初代教会の時代から重要視されており、内容を通じてキリスト教徒に対する教えが綴られています。

書簡の目的とあて先

本書簡は、「各地に離散している人々へ」との形式で表現されていますが、特に異邦人に向けられたメッセージが中心です。著者は、小アジアの地域にいる信者たちに手紙を送っています。内容は大きく分けて、信者たちが迫害に耐え、聖なる生活を送り、キリストを模範として生きることを教えています。

文章の構成

手紙は、以下のような構成になっています。
1. 迫害に耐えること（1:2-10）
2. 聖なる生活を送ること（2:11-3:13）
3. キリストに倣う忍耐と聖性の示し（3:14-4:19）
4. 指導者たちへの助言（5章）
このように、ペトロは信者たちに対して希望と励ましを与え、彼らの信仰を深めることを目指しています。

著者と成立時期の論争

しかし、著者としてのペトロがこの手紙を書いたかには議論があります。近代の高等批評において、著者はペトロではなく、別の人物ではないかという意見が広がっています。その理由として、手紙の洗練されたギリシア語が挙げられ、また、書簡の中にイエス自身を知っていることを示す言及が見られないことが指摘されています。

さらに、手紙には旧約聖書からの引用が多く含まれており、特に『七十人訳聖書』からの引用が見られます。実際のペトロはこの形式の旧約聖書に親しんでおらず、このことからも手紙の著者には異論があります。ある学者たちは手紙の最後に登場する「シルワノ」なる人物が著者ではないかとしています。このシルワノは5章12節で「忠実な兄弟シルワノによってこの短い手紙を書いています」と述べられています。

書簡の成立時期と背景

また、手紙の成立時期についても論争があります。中には、ローマ帝国での迫害がペトロの時代には起こっていなかったため、手紙はネロ帝の後、ドミティアヌス帝の時代に書かれたのではないかとする意見もあります。さらに、シルワノ自身が執筆したとする場合、その成立時期はより後になる可能性があります。また、本書簡が2世紀半ば以降の文献に触れられていることを考え、それに照らしても適切な成立時期についての見解には多くの振り幅があります。

特徴的な記述

『ペトロの手紙一』の中で特に注目すべきは、霊に関する記述です。「彼は獄に捕われている霊どもに下って行き、宣べ伝えることをされた。」（3:19-20）という部分は、後のキリスト教思想における「陰府」の概念にも影響を与えました。特に、死人への福音宣伝が言及されている点は、聖書の他の箇所とも関わりをもち、信仰の基盤として重要視されています。

まとめ

このように『ペトロの手紙一』は、信者の生活や信仰を支える上での重要なメッセージを含む書簡として、キリスト教の歴史において大きな意味を持っています。信者たちが逆境にある時に思い出すべき教えが具体的に示されており、今なお多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索